ストーリー

One Life, One Thought
Vol. 77

本居宣長

人は自らのやるべきことに全力を尽くすべきだ。それが成功するかしないかは、我々の及ばぬところである。

2017/12/28

Illustrated by KIWABI - Norinaga Motoori

国学者である本居宣長が書いた『古事記伝』は、国産みや天岩戸伝説といった日本の創生に関わる神話や伝承が記された『古事記』を編纂して注釈をつけたたもので、それは古くから日本人が大切にしてきた日本人固有の価値観をまとめた歴史書です。

『古事記伝』は34歳になった宣長が、医師として働くかたわらで編纂を始め、それまでの人生と同じ長さの34年という歳月をかけて完成させたものであり、宣長はスタートが遅くても目的は達成できるということを次のように語っています。

「自分には才能がない、学問を始めたのが遅い、勉強する時間がないからといって、学ぶことを怠ってはいけない。如何なる場合も諦めず努力しさえすれば、目的は達し得るものであることを知るべきである。」(1)

問題なのは「年齢」ではなくて「諦めてしまうこと」

↑問題なのは「年齢」ではなくて「諦めてしまうこと」(リンク

昼は町医者として診療を行い、夜は人に勉強を教え、そのあとは深夜におよぶまで書斎で勉強していた宣長は、学問においてもっとも重要なことは「継続」であり、継続のためには生活の安定が大切であると考えていました。

宣長は近所や親戚との付き合いをそつなくこなして支出を省くとともに時間の管理を徹底して行い、そうしてできたお金と時間を書物に費やすというサイクルを続けていたのです。(2)

宣長は万葉集の中で使われる枕詞を研究した本である「冠辞考」という書物を読んだ時も、1回目に読んだ時はその内容がまったく分からなかったにも関わらず、辛抱強く読み返していく中で、腑に落ちる箇所が少しずつ増えていき、ついには書かれていることをすべて理解したといいます。(3)

ただ「学ぶ」のではなくて「学び続ける」ということが大切です

↑ただ「学ぶ」のではなくて「学び続ける」ということが大切です(リンク

昼夜を問わず勉学に励んだ宣長ですが、宣長が努力を続けることができたのは、人生の後半になってから見えてきた「日本」と「日本人」の本来の姿を後世に伝えたいという大きな志がエネルギーとなっていたからです。(4)

小さい頃の宣長は商人としての経験を積むために丁稚奉公や養子として住み込みで働きに出たものの、本ばかり読んでいてどうにもうまくいきませんでした。

それならばと医者を目指すために本格的に学問の道へと進んでいった宣長ですが、同時に、好きだった和歌や文学への関心が高じて日本の古典を熱心に研究するようになっていきます。

大きな志があると前に進むエネルギーが湧いてくる

↑大きな志があると前に進むエネルギーが湧いてくる(リンク

人の思いや行動というのは言葉に表れるため、言葉をたどることで昔の日本人がどのようなことを考えていたのか分かるのでないかと考えた宣長は、当時の歌や文章を読むことでその時代の言葉を学び、言葉を知ることによって昔の日本人の心に迫ったのでした。(5)

その入れ込みようは著名な国学者である賀茂真淵に万葉集について質問する手紙を6年間にも渡って送り続けたほどで、その手紙の数は1,000通にも及んだといいます。

学問をする人であると同時に和歌を詠む人であった宣長だからこそ、物事に触れて人の心が揺れ動くという「もののあはれ」に日本人の心の本質を発見し、さらに日本で古来から使われている言葉についての知識を生かして古事記を研究することで、日本の国柄を解き明かすことができたのです。

古事記を読めば、日本の本当の姿がわかる

↑古事記を読めば、日本の本当の姿がわかる(リンク

私たちは「才能」とか「運」とかいう言葉を前にすると努力することが必要であるという一見平凡でありながらも大切な真理をついつい見落としてしまいがちではないでしょうか。

あのピカソも生涯に渡って絵を描き続ける中で、10歳から90歳までの間に8万点もの絵を残しており、80年で8万点とすると、年間で1000枚、1日あたり3枚のペースで絵を描いていたことになります。スポーツでも芸術でも学問でも、日々の努力なくして優れた成果を上げることはできないのです。(6)

優れたアウトプットは圧倒的な量をこなすことによって生み出される

↑優れたアウトプットは圧倒的な量をこなすことによって生み出される(リンク

宣長は「人は自らのやるべきことに全力を尽くすべきで、それが成功するかしないかは、我々の及ばぬところである」と述べていますが、努力を継続できるかどうかは、これをやった結果がどうなるのかなどと考えずに、今やるべきことを逃さずに行えるかどうかにかかっています。

ロック・ギタリストの神様であるエリック・クラプトンも、セミプロだった頃、演奏終了後に仲間から飲みに誘われ時に「飲みたいのはやまやまだけど、一流のギタリストになるために、今僕がやらなければならないのは、酒を飲むことではなく、ギターの練習をすることなんだ」と言って断っていたのだそうです。 (7)

どんな職業でも、成功している人というのは、当たり前に泥臭い人生を送っている

↑どんな職業でも、成功している人というのは、当たり前に泥臭い人生を送っている(リンク

私たちが意識すべきなのは、いきなり一発逆転の大きな成果を狙うことよりも、目の前のできることに一生懸命取り組むことであり、そうするからこそどんな結果であれ後悔をせずに受け入れることができるのです。

勉強でも仕事でも「継続しなければならない」と考えるとなかなかうまくいかないものですが、「今の自分にできることをやろう」と考えて、毎日を過ごすことが自分らしく輝くための秘訣なのではないでしょうか。

参考書籍
1. 久恒啓一「遅咲き偉人伝」(PHPエディターズグループ、2010年) Kindle 1203-1207
2. 久恒啓一「遅咲き偉人伝」(PHPエディターズグループ、2010年) Kindle 1212-1216
3. 田中康二「本居宣長」(中公新書、2014年) P66, 67
4. 久恒啓一「遅咲き偉人伝」(PHPエディターズグループ、2010年) Kindle 1351
5. 田中康二「本居宣長」(中公新書、2014年) P20, 21
6. 内藤 誼人 「継続は、だれも裏切らない」(PHP研究所、2010年) Kindle 412-415
7. 内藤 誼人 「継続は、だれも裏切らない」(PHP研究所、2010年) Kindle 183-186