ココ・シャネル
20歳の顔は自然がくれたもの。50歳の顔には、あなた自身の価値があらわれる。
ノーベル文学賞を受賞した作家のバーナード・ショーは、「二十世紀最大の女は、 キュリー 夫人とシャネルである。」 という言葉を残し、同時代に生きた天才画家と並べて「男ピカソ、女シャネル」と言われるほどに、その時代を象徴したファッションデザイナーのココ・ シャネルは、モード界だけでなく女性の生き方にも革命を起こしました。
シャネルは世界中の女性を魅了しましたが、「シャネル」の洋服を一着も持たないという人でも、黒いワンピースや、ツイード、ジャージー、プリーツスカート、ショルダーバッグ、そしてリップスティックを生み出したのがシャネルだと知れば、時代を読むセンスと才能に賞賛を贈らずにはいられないでしょう。
作家の山口路子氏は、「モード界に革命を起こし続けたシャネルは、生涯を通してかけがえのない人間でありたいと願い、常に他の人と自分を区別することを意識し続けた人であった」と著書『ココ・シャネルという生き方』のなかで述べています。
12歳で姉とともに孤児院に預けられ、貧しい暮らしのなかで自由を夢見続けていた少女時代を過ごしたシャネルですが、やがて20代になり最初の成功のチャンスをつかみます。恋人の服を借りて着こなし、斬新でシックなスタイルは女性たちの注目の的となりましたが、彼女の独特な服装を生み出したのは、「他の女性たちと一緒にされたくない」という強い思いだったといわれてます。
女性らしい豊満な美しさがもてはやされた時代に、小柄で痩せていたシャネルは、いつまでも10代のように見えたそうですが、そうしたコンプレックスを魅力に変える天賦の才能を、彼女は若い時から持ち合わせていました。
DOVEが行った調査によると、「自分は美しい」と考える女性は、世界でたった4パーセントに過ぎず、国を問わず女性は外見にコンプレックスを抱えていることが明らかになっています。シャネルは「欠点は魅力の一つになるのに、みんな隠すことばかり考える。欠点をうまく使いこなせばいい。これさえうまくいけば、なんだって可能になる。」と語っています。
シャネルは、34歳でばっさりと髪を切り、長い首すじが美しいボーイッシュな女性に生まれ変わりました。当時、美しいとされた豊満なボディラインとはほど遠い、ほっそりしたシルエットをあえてショートヘアで引き立たせる事で新しいスタイルを作ったのです。そんなシャネルの姿をひと目見ようと、パリの女性たちがお店に詰めかけたと言います。
内閣府の調査によると、日本人女性が幸福だと感じるのは30代がピークで、40代から50代にかけてどんどん下降し、やがて老後を迎えてふたたび上昇することがわかっています。恋愛や仕事も充実し、結婚、そして出産を迎える30代は、女性としての美しさが花開き、最も幸せだと感じる女性が多いということは当然のことなのかもしれません。
シャネルは、「20歳の顔は自然がくれたもの、30歳の顔は、あなたの生活によって刻まれる。50歳の顔には、あなた自身の価値が表れる。」と語り、「40歳から女は本当の女になる」という言葉を残しています。多くの女性にとって、30代で訪れる幸せなライフイベントを経験した後に、どういう生き方を選択するかということが、ある種の女の人生の分岐点であることをシャネルは誰よりも理解していました。
パリで開催された万国博覧会の夜会に、オーガンジーのディナードレスで現れたシャネルはとても美しく、とても54歳には見えなかったといいます。才能あふれる芸術家や、世界一の富豪など、数多くの魅力的な恋人たちと恋愛を重ねながらも生涯独身を通し、仕事にすべてを捧げたシャネルは、「本来、女は男に愛されてこそ幸せなのだ。男に愛されない女など何の価値もない。」と晩年のインタビューで答えました。
フランス政府が公開した報告書によると、50歳以上のフランス人女性の90パーセントが「現在も性生活がある」と回答しており、「もう○○歳だから恋愛は終わり」と決めつけないフランス人の幸福度は、年を重ねるごとにどんどん上昇し、70歳前後に最も高くなることがわかっています。
89パーセントの女性が「いくつになっても美しくなれる」と考えているように、年齢に合った美しさがあることを私たちは頭では理解していますが、普段メディアで「美しい」と賞賛されているのは、若くてスタイルも抜群、ぱっちり二重で、顔が小さい女の子たちばかりで、「痩せなければ」、「若がえらなければ」とどうしても考えがちで、次第に自信を持てなくなってきています。
働く女性たちを対象に、自分に自信があるかどうかを聞いたところ、「自信がある」と答えたのはニューヨークに住む女性の96.1パーセントに対し、日本人女性は4割にも満たず、パリの82.5%、ソウルの76.7%にも大きく差がつく結果となりました。日本人は、特に謙虚な国民性からか、自分自身を認めてあげることが苦手だということがこの結果からもわかります。
しかし、外見も性格も十人十色の私たちが、同じ美の価値基準を追いかけることは、そもそも不自然なことです。既成の美しさをコピーして生きることをやめて、シャネルのように生まれ持った自分だけの美しさを魅せる喜びを知ることができたなら、5年後、10年後には、自信に満ちあふれた美しい女性が鏡の前で微笑んでいる姿を見ることができるかもしれません。