ストーリー

One Life, One Thought
Vol. 71

夏目漱石

無闇にあせってはいけません。ただ牛のように図々しく進んでいくのが大事です。

2017/11/17

Illustrated by KIWABI - Soseki Natsume

明治の文豪として「坊ちゃん」や「我輩は猫である」などの名作を生んだ夏目漱石ですが、彼は自己本位でなかったらこのような成功を成し遂げることはとても難しかっただろうと語りました。(1)

それは、作品に自分の気持ちを込めずに、ただ多くの人に受け入れられたい一心でやる仕事では、自分の魂を作品に込めることなどできないからだと言います。

そんな漱石もこの世に生まれた以上何かしなければいけないと思いつつも、長い間、何をしていいのか全く見当がつかないという時期がありました。

成功の秘訣は他人に受け入れられようとするのではなく自分らしくいること

↑成功の秘訣は他人に受け入れられようとするのではなく自分らしくいること(リンク

イギリスに留学し、文学と向き合う中で、漱石は外国の優れた文学を日本語に訳せば日本でも同じように流行するだろうという当時の大勢を占めていたやり方に疑問を抱き、文化も習慣も人柄も違うのだから自分は独自の文学のスタイルを築き上げようと奮闘を始めます。

漱石は英文学の本場イギリスで、例え専門家が言うことであっても自分の考えとは違うと感じれば、文芸に限らずありとあらゆる本を読み、その理由を突き詰めました。そして「ここに俺の進むべき道があった!」「ようやく掘り当てた!」という感覚に出会ったのです。

イギリスから日本へ帰国した漱石は、例え科学的合理性に反することであっても、読み手にそこに書かれていることが本当のことであるような感覚を抱かせるのが文学であるといった趣旨の独自の文学論を打ち立てるまでに至りました。

多くの人はあと少し進めばゴールにたどり着くのに歩くことをやめてしまう

↑多くの人はあと少し進めばゴールにたどり着くのに歩くことをやめてしまう(リンク

漱石は「何かしなければいけないのは分かるんだけど、何をすればいいのか分からない」という状態であっても、歩み続けることが自分の幸福のためには絶対必要だと考えるようになり、良い意味での「自己本位さ」を手に入れ、次のように述べています。

「もしどこかに『こだわり』があったら、それを踏み潰すまで進まなければダメですよ。もっとも進んだってどう進んでいいかわからないのだから、何かにぶつかるところまでいくよりほかに仕方が無いのです。」(2)

無闇に焦ってはいけません、ただ牛のように図々しく進んでいくのが大事です

↑無闇に焦ってはいけません、ただ牛のように図々しく進んでいくのが大事です(リンク

化粧品や健康食品を販売する銀座まるかんの創業者で、高額納税者として長者番付の常連であった斎藤一人さんも自身の著書の中で、「地面を5、6回掘ったくらいでは井戸の水なんて出てこなくて、水が出るまで掘ってやるんだという覚悟が大事である」と語っており、「しかも井戸だったら水脈がなければ水は出ないが、人の場合は才能がでない人はいない」と言い切っています。

進化論を唱えたことで有名な科学者のダーウィンも、決してずば抜けて頭が良かったというようなことはなく、理解力や抽象的なことについて考える力が乏しいと自分で認めた上で、「人間の知的能力に大した差はなく、差があるのは熱意と努力だけだ」と主張していました。(3)

どんな人にも才能はある。違いはそれを掘り起こせるか、起こせないかだけ

↑どんな人にも才能はある。違いはそれを掘り起こせるか、起こせないかだけ(リンク

漱石は、世間の機嫌を取った文章を書くのではなくて、自分の芸術的な感性が発露した結果がたまたま人のためになって、気にいってもらえた分だけの報酬が自分に返ってくるというのが本来の作家のあるべき姿であると考えていたようです。(4)

大正時代から戦後にかけて活躍した作家の豊島与志雄も「芸術作品というのは必ず作者の心境が宿るものであり、作家の心境を多く宿せば宿すほど、より本質的な芸術作品になるのだ」と述べていますが、それは芸術に限らず、人の評価や売れ行きなどの見返りを考えているようでは何かを成し遂げることは到底難しいということではないでしょうか。(5)

実際に、100件以上の研究データを分析した結果、報酬の高い仕事よりも自分の興味にあった仕事をしている方が高いパフォーマンスを発揮し、同僚にも協力的で、人生全体に対する満足度が高いことが分かったそうです。(6)

あなたの成功はどれだけ強い情熱を持っているかによって決まる

↑あなたの成功はどれだけ強い情熱を持っているかによって決まる(リンク

漱石の生き方を見ていると、他人に少しくらい図々しいと思われても、どんどん自分の道を進んでいくことが大切で、道を切り拓くというのはまさにそういうことなのだと思わされます。

そして、自分の進む道を尊重する分、今度は他の人の行く道も受け入れられるようになれば、私たちは今よりもっとのびのびと生きられるようになるのではないでしょうか。

参考書籍
1. 夏目漱石 「私の個人主義ー漱石講演集」(2012年、グーテンベルク21) Kindle 360
2. 夏目漱石 「私の個人主義ー漱石講演集」(2012年、グーテンベルク21) Kindle 1858
3. アンジェラ・ダックワース 「やり抜く力 GRIT–人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける」(2016年、ダイヤモンド社) Kindle 1661
4. 夏目漱石 「私の個人主義ー漱石講演集」(2012年、グーテンベルク21) Kindle 367
5. 豊島与志雄 「野に声なし」 (1967年、未来社) Kindle 2
6. アンジェラ・ダックワース 「やり抜く力 GRIT–人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける」(2016年、ダイヤモンド社) Kindle 1702