名文家の作品を書き写し
美文字と文章力を身につける
ふだん親しくしている友人が、紙にペンを走らせたとき、その文字が美しいとハッとします。近頃はスマートフォンやパソコンで文字を打つ人が多いためでしょう。人が綴る文字そのものを見る機会が減ったように思います。けれど、その人の内面が滲み出る、柔らかな曲線の平仮名や凛とした佇まいの漢字を目にすると、書き文字から情感が伝わってくるようで惹きつけられます。しかも、そこに記された文章が美文や名文であれば、尚更のこと。
文章のトレーニング術を伝える書籍『超入門 名作書き写し文章術』(株式会社コスモトゥーワン)では、名文家の作品を1日10分書き写し、それを継続させれば文章力は自然と身につくと推奨しています。たしかに、頭であれこれ考えるよりもお手本をひたすら書写すると、体で覚える感覚で技術は磨かれるかもしれません。「習うより慣れろ」の考え方ですね。
書き綴り、声に出して読めば、まろやかな響きにうっとり
名文を書き写すと、物語の構成や筋道の立て方についても学べますが、小説を写す場合は、まず豊かな表現力に刺激を受けるのではないでしょうか。たとえば、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』。冒頭から書き進めていくと、次の描写に出会います。
「池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色のずいからは、何とも云えないよい匂が、絶えまなくあたりへあふれて居ります」
ものは試しに、しいんと静まり返った部屋で、この文字ひとつひとつを手で書き綴ってみてはいかがでしょう。そして、書いた文字を声に出して読んでみる。すると、日本語ならではのまろやかな響きにうっとりとするはずです。さらに、不思議なことに、美しい文章を書き写すと、字も乱雑にならず丁寧に記していることに気づかされます。
自分なりの丁寧な文字で、読む人の心がふっくらと満たされるような文章を。ゆっくりとしたペースでいいから、少しずつ書けるようになりたいものです。
text : Aki Tanaka(キクカクハナス)