Essence for your beautiful life
2017/06/13
「和菓子の日」は
漱石が惚れた練羊羹で
濃密なひとときを
6月16日は「和菓子の日」。この記念日の存在と、さらに由来までも知っている人は、なかなかの和菓子通とお見受けします。起源は、平安時代中期の嘉祥元年6月16日。当時の天皇である仁明天皇が、蔓延している疫病を鎮めるため、16個の菓子や餅を神前に供えて厄除けを祈ったことが発端だとか。
「和菓子」とひと言で言っても、種類は実にさまざま。饅頭、大福、団子、きんとん、練り切り、せんべいなど、日本人にとってはどれも馴染みあるものばかりですが、極めて庶民的でありながら、これらとは別格の存在感を漂わせる品があります。それは、練羊羹。
滑らかで、緻密で、思わず撫でたくなる「美術品」
シンプルモダンと呼びたくなるほどの、一切の無駄を省いた造形美。そして、いつまでも眺めていたくなる、しっとりとした艶。この絶品が日本で考案されたのは、1589年の頃。和歌山県の和菓子店『駿河屋』の、五代目岡本善右衛門の案によって生み出されました。
練羊羹の姿形に魅了された明治の文豪、夏目漱石は、小説『草枕』のなかでこう綴っています。
「あの肌合が滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ」
さらには、「思わず手を出して撫でて見たくなる」と。まるで愛する人への思いを吐露するかのような惚れ込みよう。
たしかに、上質な練羊羹には、人の心を惹きつける趣があります。そして、口に含むと人を恍惚とさせる魅力もあります。来たる「和菓子の日」は、気になるあの人と練羊羹をいただく。そんなひとときを過ごすのもいいかもしれません。雨に濡れる紫陽花を眺めながら、ゆっくりとひと口ずつ。きっと、濃密な時間を得られるはずです。
text : Aki Tanaka(キクカクハナス)