ストーリー

One Life, One Thought
Vol. 72

グレース・ケリー

オスカーを受賞した日が人生で一番寂しい時間でした

2017/11/24

Illustrated by KIWABI - Grace Patricia Kelly

ハリウッドのスター女優として一世を風靡し、モナコ大公と結婚して、皇妃にまで上り詰めたグレース・ケリーは、多くの女性にとって憧れの象徴です。

スリラー映画の巨匠、アルフレッド・ヒッチコック監督のお気に入りの女優としても有名で、彼の手がける様々な作品においてヒロインを演じていたグレースは、ハリウッド時代には、世間からは「クールビューティー」と称され、絶大な人気を誇りました。

そんな人気絶頂のグレースが、カンヌ国際映画祭で知り合ったモナコ大公レーニエ3世と結婚することになり、映画界を引退することになると、世間を大きく騒がせたのも無理はありません。

グレース・ケリーは「クールビューティー」で人々を魅了し続けた

↑グレース・ケリーは「クールビューティー」で人々を魅了し続けた(リンク

2人の挙式は大変な騒ぎとなり、1,600人を超える記者やカメラマンが押し寄せたそうです。

これはチャールズ皇太子とダイアナ妃の3倍に近い数字だといい、いかに世間が映画女優と王子様という「おとぎ話」のような組み合わせに注目していたのかわかります。(1)

しかし、グレースは彼女の人生が「おとぎ話のようだ」と言われること自体が「おとぎ話」だと語っており、ハリウッドスターからモナコ大公との結婚など、まるで「おとぎ話」のような人生を歩んでいるように見えますが、実際には世間から注目され続け、常に完璧な女性を演じなければいけないというプレッシャーがあり、苦しかったと言いました。(2)

私の人生がおとぎ話のようだということ自体がおとぎ話よ

↑私の人生がおとぎ話のようだということ自体がおとぎ話よ(リンク

グレースは「プライベート」を非常に大切にしたかったようで、その姿勢について世間からは「多くを語ろうとしない冷たい女性」と見なされがちだったといいます。(3)

当時の俳優たちは映画に出演することで大衆の関心を集め、時折メディアのインタビューを受けることで世間からの名声を維持するのが一般的で、まるで「商品」のように扱われていたそうです。

しかし、グレースはそのような名声を維持するために自分のプライベートを犠牲にするのは間違っていると考え、以下のように述べていました。(4)

「内に秘めている何かがなければ、人生がただの雑誌のレイアウトのようになってしまう。そんなの嫌よ。」

ただの雑誌のレイアウトのような人生なんてイヤ

↑ただの雑誌のレイアウトのような人生なんてイヤ(リンク

彼女は「オスカーを受賞した日が人生で一番寂しい時間だった」と語っているのですが、それは受賞後ホテルに帰っても一人孤独であったからだといい、たとえ名声があったとしても誰かと喜びを分かち合うことができなければ決して幸せにはなれないのだと述べています。(5)

モナコでもほとんどプライベートはなく、「太れば妊娠、痩せればガンと言われました」と嘆いているように、名声を得る代償に世間からの評価に常にさらされる状況になりました。

太れば妊娠、痩せればガンと言われる

↑太れば妊娠、痩せればガンと言われる(リンク

「プラダを着た悪魔」や「クレイマークレイマー」で有名なメリル・ストリープも、数々の賞の受賞は個人的な幸せや幸福感にほとんど寄与しないと語っているばかりか、成功や名声は私たちから友人、現実、バランスといったものを引き離すとさえ述べています

しかし、有名であることが物事の多くを困難にすることも、無名であることを失うまでは分からないのでしょう。

実際、私たちはSNSの普及によって、自らのプライベートを世間に晒すことで、終始他人の目を気にして生きる状況に自らを追い込んでいます。

無名の時はそのありがたみがわからない

↑無名の時はそのありがたみがわからない(リンク

SNS上でのフォロワーの数を増やそうと懸命になる人が多くいますが、リアルの人間関係では付き合いの「深さ」があるのに対し、SNS上では「フォローされている、されていない」の”0”か”1”しかありません。

そして、人間関係で大切なのは誰と繋がるかではなく、ただ単純に「数の多さ」になってしまったといいます。(6)

そのように人間関係の価値が「数」にシフトしてきてしまっている最近では「インフルエンサー」と呼ばれるSNSのフォロワー数や、世間への影響力の大きい人を使ったマーケティングが流行してきました。

その流れから、企業もこぞってインフルエンサーを起用して商品やサービスを広めるようになりましたが、フォロワーという影響力を手にしたとしても、彼らは決して幸せになれるわけではなく、むしろ一挙一動が世間から常に評価される生きづらさに直面するのではないでしょうか。

フォロワーを獲得すればするほどプライベートはなくなっていく

↑フォロワーを獲得すればするほどプライベートはなくなっていく(リンク

グレースは公妃最後のインタビューで、「慎ましく、思いやりのある人間だったと、みんなの記憶の中に残しておいて欲しいのです」と語りました。(7)

自分の葬儀をイメージするとなりたい姿が見えてくるとよくいいますが、どのような印象を人々から持ってもらいたいかを考えることでこれからの振る舞いは変わってくる気がします。

有名になったり、名声を求めるのも悪いとは思いませんが、きっと死ぬときにはそんなことはどうでもよくて、「思いやりのある人だったよね」と、たとえ少なくても本当に親しい友人何人かから思われる人生の方がよっぽど素敵なのではないでしょうか。

参考書籍
1. ジェフリー・ロビンソン「グレース・オブ・モナコ」(角川文庫、2014)Kindle 1138
2. 岡部昭子「心を磨く グレース・ケリーの言葉」(マガジンハウス、2011)p.80
3. 岡部昭子「心を磨く グレース・ケリーの言葉」(マガジンハウス、2011)p.31
4. 岡部昭子「心を磨く グレース・ケリーの言葉」(マガジンハウス、2011)p.30
5. 岡部昭子「心を磨く グレース・ケリーの言葉」(マガジンハウス、2011)p.42
6. 高橋暁子「ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち」(幻冬舎、2014)Kindle 521
7. 岡部昭子「心を磨く グレース・ケリーの言葉」(マガジンハウス、2011)p.182