ジェームズ・キャメロン
想像力は実際に現実を呼び起こす力があります。
「タイタニック」や「アバター」といった数々のヒット映画を世に送り出した巨匠ジェームズ・キャメロン監督は、子供の頃からエイリアンや宇宙船といったSFの世界が大好きで、いつも想像の世界を頭に思い描いていたそうです。
その世界を授業中にも教科書に描いていたジェームズは、「想像力には、はけ口が必要だったんでしょうね」と自身の子供時代について振り返っています。
落書きが見つかるたびにジェームズは先生から叱られていたと言いますが、彼にとってはそれが自分の頭の中の世界を現実という外の世界に送り出すための手段だったのでしょう。
ただ頭の中で考えていただけでは「想像」以上の何物でもなかったものが、落書きという形で外の世界に吐き出したことで、それが「創造」となり、ジェームズが生み出した数々の作品のキャラクターやストーリーの元となりました。
「創造的」になるためには様々なアイデアを「想像」するだけではなく、それを積極的に外に吐き出していかなければならないのです。
ジェームズが映画製作の道を選んだのは、彼の中にある「物語を伝えたいという衝動」と、「映像を生み出したいという欲求」をうまく調和できると考えたからだといいます。
ジェームズが手がけてきた作品は、斬新なカメラワークや、深海での撮影といった数々の新たな試みによって、映画を観る人々を常に驚かせてきましたが、それは誰もやったことのないことをしたいという思いからきていたのだそうです。
映画「タイタニック」についても、製作しようと思った本当の理由を「実物のタイタニック号を直接見てみたかったから」だと彼は言います。
そして「本物のタイタニックを撮影してオープニングで使えばものすごい宣伝効果がありますよ!」と映画制作会社を説得し、実際にタイタニックを深度4000メートルのところで見ることに成功したのです。
限界を設けるのは他人がすることであって自分ですることではないのだから、できないと思うことなく進んでリスクを取ることが大切なのだというジェームズは、「想像力は実際に現実を呼び起こす力があります」という言葉も残しています。
自己啓発本の走りとなったナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」という本でも、人はなりたい姿を想像することで、潜在意識に無意識的に働きかけることができ、その結果行動が変わるため、思考は現実化するのだそうです。
例えば、プラシーボ効果と呼ばれる、人間の脳が効果の無い偽薬に騙されて症状が改善していくことや、アスリートの行うイメージトレーニングなど、潜在意識に働きかけることで私たちは思考を現実に近づけることができます。
世界的ベストセラーとなった「サピエンス全史」では、人間は想像力を使って国家や貨幣といった「想像の産物」を生み出したことで、見知らぬ人同士が協力するという空前の能力を手に入れたと論じられていました。(1)
人間だけが見ず知らずの莫大な数の人々と協力して大きなコミュニティを形成できるのは、コミュニティの中で信じられている共通の神話によるものなのだそうです。
例えば、カトリック教徒が、互いに面識がなくても信仰復興運動に乗り出したり、共同で出資して病院を建設したりできるのは、イエス・キリストが肉体を持った人間として生まれ、人類の罪を償うために十字架に架けられたと皆が信じているからだといいます。
国家や貨幣だけではなく、人権、法律、正義なども人間の想像力の産物であって、実際には存在しませんし、「想像力」という人間だけに与えられた能力があったからこそ、私たち人間は現在まで生き延びることができたと言っても過言ではありません。
ウォルト・ディズニーも、「ディズニーランドは永遠に完成しない。世界に想像力がある限り、成長し続けるだろう」と述べており、私たち人間の想像力に終わりがないからこそ、ディズニーランドは世界中の人に夢を与え続けるテーマパークになるのだそうです。
実際、彼は自身が夢見たディズニーランドの世界を見ることなく亡くなってしまいましたが、彼の死後も全世界5ヶ国に広がるテーマパークや、50本を超えるディズニー映画など、彼の創った夢の国は今もなお、広がり続けています。
ジェームズの子供の頃に思い描いていた夢の世界が、30年の年月を経て映画「アバター」として現実のものとなったように、「想像力」は夢を現実にする力を持っているのです。
人間だけの特権として与えられている「想像力」をもっと存分に発揮して、理想と現実の間を埋めていってみてはどうでしょうか。
1. ユヴァル・ノア・ハラリ「サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福」(河出書房新社 、2016)P40