山田昭雄
世の中の97パーセントと同じ働き方をしていたのでは、いつまでたってもうまくいかない。ならば、その方法の真逆をとことんやってみるまでだ。
日本一のホワイト企業とまで言われる未来工業株式会社は、社員の残業は禁止であり、また、年間休日140日と休みが多いにもかかわらず、創業以来赤字が無いことで知られています。
昔から多くの企業が参入している電気スイッチを中心とした電気資材の分野でヒット商品を世に送り出し続け、特にコンセントの裏側に埋め込まれているスイッチボックスの国内シェアは8割を超えます。
こうした大手企業にひけをとらない優良企業を創業した山田昭雄は、普通のやり方では大手企業には勝てないと、自社製品の差別化を常に考えることに力を注ぎました。
年間4,000万円以上の経常利益を出している優良企業は日本中で存在する企業の3パーセントである約600社しか存在していません。
97パーセントの会社の人は、がむしゃらに働いても利益は出していないという現実から、山田は「世の中の97パーセントと同じ働き方をしていたのでは、いつまでたってもうまくいかない。ならば、その方法の真逆をとことんやってみるまでだ」と考えました。
ただがむしゃらに働くのではなく、仕事に対する考え方を見直すことが重要であるとして、未来工業株式会社には「常に考える」という社訓が社内中に張ってあるそうです。(1)
山田の本やインタビューの中では、必ず考えることの大切さについて言及されており、次のような言葉もありました。(2)
「すぐれたアイデアに知識や才能はいらない。必要なのは『なぜ?』と思う感覚だ。当たり前のことを当たり前と思わず、常に『なぜ』と考える。そこから常識を打ち破る斬新なアイデアや生き方も生まれてくる。」
仕事で利益を上げるためだけではなく、人生においても、思考停止になっているよりは幸せになるためにはどうするかを考えている人のほうが幸せになれる確率は格段に高いでしょう。
ふとした偶然での発見や幸運をつかみ取ることを“セレンディピティ”といいますが、セレンディピティを引き寄せるためにも物事について考えていることが大切なのだそうです。
富山県立大学客員教授である澤泉 重一氏は「当てにしないものを偶然にうまく発見する」には、普段から課題意識を持っている必要があると言っています。
思いもしなかった偶然に気がつけるかどうかは、本人が意識的に考えているかどうかにかかっているのではないでしょうか。(3)
「仕事なんておカネを稼ぐためにやるもので、楽しいわけがないと決めつけると、途端に仕事も人生もつまらなくなる」という山田の発言は、考えている人にしか出会えない偶然や発見があり、考えることで仕事も含めて人生は面白くなることを示しています。
堀江貴文氏は働くということについて、思考停止になって辛い仕事を続けていくから、ブラック企業が出来上がっていくだけで、辛い仕事をやめて、自分が楽しいと思うことを仕事にしてしまえばブラック企業なんてなくなると述べました。(4)
高収入や有名になることを目標にしている人は、いい結婚や友人に囲まれることを目標にしている人に比べて、幸せではないと感じることが多いそうですし、結局自分自身にとって何が本当に幸せなのかは、自分で考えることでしか発見できないのではないでしょうか。
ハウツーサイトである「nanapi」というサービスを開発した古川健介氏は、「赤字が我々のアイデンティティ」と言っていたことを例に挙げ、どんな状況でも楽しく仕事をしていくためには、考え工夫していくことで、辛くて嫌な仕事は減っていくと述べていました。
つまり、経営の厳しい企業に勤めているからといって不幸であり、高学歴・高収入といったステレオタイプが幸せなのかというと、必ずしもそうではなく、それを決めつけている時点で思考停止と言わざるを得ません。
考えることから逃げて思考停止に陥ったところで、問題を後回しにしただけで何も解決していないと、人気社会派ブロガーとして独自の意見を発信するちきりん氏は「自分は本当は何をやって生きたいのか、それをうやむやにして『良い人生』はあり得ない」と述べています。(5)
社会に貢献し利益をあげるためだけではなく、社員の人生をより良いものにできるからこそ、未来工業株式会社も「常に考える」ということをどんなことに対しても徹底しているのではないでしょうか。
何も考えない思考停止状態では、人が幸せをつかむ確率は下がるに違いないのですから。
1. 山田昭男「稼ぎたければ働くな」(サンマーク出版, 2012) Kindle 29
2. 山田昭男「山田昭雄の仕事も人生も面白くなる働き方」(東洋経済新報社, 2015) Kindle 56
3. 澤泉重一「偶然からモノを見つけ出す能力ー「セレンディピティ」の活かし方」(KADOKAWA / 角川学芸出版, 2014) Kindle 1416
4. 堀江貴文、西村博之「ホリエモン×ひろゆき やっぱりヘンだよね ~常識を疑えば未来が開ける」(集英社, 2016) P14
5. ちきりん、梅原大吾「悩みどころ逃げどころ」(小学館, 2016) Kindle 1168