グウィネス・パルトロウ
役者、母親、そしてビジネス。全部やらないと気がすまないの。
忙しい毎日の中で、効率をはかるために複数の作業を平行して行う「マルチタスク」になってしまうことは、「生産性の敵」と言われています。
ただし、これは一つの事を追求することで、「生産性」ばかりを求めてしまう男性の脳には当てはまっても、左脳と右脳をつなぐ脳梁(のうりょう)の後ろが大きく、多くの情報を行き来させて複数のことを同時にこなしたり、いろんな好奇心を抱きやすい女性の脳には当てはまらないようです。
オスカー女優で2013年度には「ピープル誌」で、世界で最も美しい人々にも選ばれたグウィネス・パルトロウは、2008年にファッションをデザインするGoopという会社を設立しましたが、自分は役者、母親、そして実業家としてマルチな好奇心を満たせていることに誇りを持っているとして次のように述べています。
「私たち女性は、マルチタスクが好きなのです。あれもこれもやってしまいたいのです。」
グウィネスは、時間という貴重な資源を、お金や成功のために使うよりも、自分にとってベストなことを探し求めるために使う方が意味のあることだと考えており、「私たち女性はみんな、知りたがり屋なの。ベストな人生を送ることができるように。」と述べ、ベストなことを追求するという本能が、女性が社会に貢献する意欲となっていくようです。
実際に、成功を目指して起業するというよりは、好きなことをしたいという理由で、小規模ながらも起業する女性が増えてきており、2010年度にはアメリカ全体で女性が事業を行っている割合は、わずか16%でしたが、それ以降、女性起業家の率は右肩上がりで伸び続け、2018年には新しく生まれる小規模なビジネスのうち、半分以上は女性が生み出すと予想されています。
その背景には、インターネットの普及によってどこにいても仕事ができるようになったことで、家庭と仕事を両立できるようになってきたことなど、時間を有効に活用できる環境が整ってきたことが挙げられます。
日本では女性の雇用を促進させるための「女性活躍推進法」が2016年4月1日に施行され、社会の受け入れ態勢が整ってきています。
しかし、2016年に行われたインターネットリサーチでは、そういった政府のアピールが女性に与えている影響は薄く、実は「本当は専業主婦になりたい」と考えている女性は、31%にものぼり、「知りたがり屋」のエネルギーを仕事として活かす女性は、まだまだ少なそうだということがうかがえます。
家庭と労働を切り離し、仕事一辺倒を前提にしているような従来型の企業の考え方は、「なんでもやってみる」方が性に合っている女性の足かせになっている可能性があります。
一人ひとりの女性が、「家庭」や「仕事」の型に自分を当てはめてしまうような、活動の枠を自ら決めてしまうことから離れて、「こうしたほうがベストなのではないか」という純粋な好奇心を実現させるところを主軸として、仕事への姿勢を考えていけば、仕事というものの根本的なあり方は数十年後にはまったく違う、「生活の一部」のようなイメージへと変わっていくのではないでしょうか。
マルチな好奇心を満たす「ベスト」な方法を模索していくためには、さまざまな人に広く意見や協力を求めていくのがよいのかもしれません。
グウィネス自身もマルチな方面への好奇心が、仕事や事業になっていくことについて、「私は指導者ではなく、質問をしている方の立場にいるのです。何か知っているふりをしたりはしません。ただ、この医者に、あの栄養士に、そのエキスパートに、“これについてどう思う?”と尋ねているのです。」と述べています。
好奇心から生まれたアイデアを起業という形にしようとしている人たちが集まっている「キックスターター」というインターネット上の資金集めの場では、一般のユーザーから資金を含めた様々な支援を得ることができますが、最近の調査では、銀行や投資家から女性のビジネスが認められ、融資を得る確率は低いのにもかかわらず、キックスターターでは男性よりも女性の起業家のほうが、目標の資金額を達成する確率が8%も高いという結果が出ています。
この調査を担当したアリシア・ロブは、この「一般が賛同したものがビジネスになる」というキックスターターの流れが、投資家や銀行を変えていくと期待して、次のように述べています。
「いつの日か、女性企業家はもっと普通に認められるようになり、投資家たちは女性に対して大きな額を投資するようになる、それは間違いないでしょう。」
グウィネスがあくまでも成功や生産性ではなく、自分の純粋な好奇心に従って事業を展開して「ベストな人生」を求めているように、好奇心というのは個人の幸福に密接にかかわっているようです。
金銭を報酬にしてパズルを解かせた人と、金銭を与えないでパズルを解かせた人を比べると、金銭を与えない人の方が休憩時間も含めて、ずっとパズルを楽しんでいるという実験が好奇心と幸福の関係を上手く示しています。
好奇心に従って本当に好きなことをやると、物事を一つ一つきちんと取り組むことができるだけではなく、作曲家が作業に熱中し、我を忘れて創造力を発揮するように、創造力と幸福の感覚に脳と体が完全に浸ってしまう「フロー体験」が生まれ、こういった状態で仕事をすることが、真の幸福に繋がると述べている心理学者も多くいます。
企業というものが、金融業界よりも一般の人とつながり、一般から認められるところに、新の価値を置くような時代が少しずつ訪れようとしています。
現在、社会とテクノロジーはもの凄い勢いで人々のライフスタイルを変化させており、常に自らの好奇心を信じて、何かに取り組んでいる女性たちは、その好奇心の対象がいくつあったとしても、その一つ一つに対して、生き生きと取り組むことが認められ、本能的な幸せを追求することができる人生が、あともう少ししたら送れるようになるのかもしれません。