女性初大西洋横断飛行士 アメリア・イアハート
最も困難なことは『行動する』と決断すること。恐怖とは張り子の虎なのです。
不安定な経済状況の中、実現できるかどうかも分からない目標のために、なんとなく安定している現状を変えることは簡単ではありませんが、アメリカ人ジャーナリストのスラリー・プロトニック氏によって行われた、「成功」に関する調査では興味深い結果が出ています。
ビジネススクールの学生1,500人に対し、「今すぐに夢を追いかける」か、それとも「先に経済的な安定に役立つ職業を選ぶか」という質問をしたところ、わずか17%の人が「今すぐ夢を追いかける」と答え、残りの83%の人は「経済的な安定を確保してから夢を追いかける」と答えたと言います。20年後、この1,500人を追跡調査してみると、「経済的な安定を確保してから」と答えた学生の中で大富豪になっていた人はわずか0.08%のみだった一方で、「今すぐ夢を追いかける」と答えた学生のうち、驚くことに39%が大富豪になっていました。
アメリア・イアハートも、「今すぐ夢を追いかける」ことで夢を実現した一人のアメリカ人女性で、世界で初めて大西洋を横断した女性飛行士です。
現在でもワシントンD.C.にあるスミソニアン博物館に彼女が愛用していた機体が展示されているように、何世代にもわたって語り継がれるような偉業を成し遂げたアメリアですが、彼女がそこまでに至った過程を見れば、アメリアが夢のそばから片時も離れないよう自分の夢に関係することに付きまとい、常に実現の機会をうかがっていたことがわかります。
アメリアは、「軍用機には女性は乗れない」という規則によって夢を阻まれ、コロンビア大学に入学しましたが、その後、偶然にも飛行機に同乗する機会に巡り合います。その時の、”空を飛ぶことの「息が止まるくらいすばらしい」感動”に勝るものはなく、夢を実現するために大学を中退し、飛行訓練費用を稼ぐために平日はトラックの運転手を始めとしたさまざまな仕事をして、休日もお金もすべて訓練につぎ込むようになりました。(1)
そこに、大西洋横断飛行という一大イベントが企画されると、容姿端麗で教養があったアメリアはその宣伝にうってつけだとみなされ、「女性初の大西洋横断飛行に挑戦してみないか」という打診を受けます。アメリアは男性パイロットが操縦する飛行機に同乗して記録を取る役目を担いましたが、メディアが「女性初、大西洋横断飛行の成功」と大きく取り上げる中で、アメリア自身は自分が操縦したわけではないと強く主張していたと言います。
当時、空を飛ぶことに対する人々の関心は高く、また、決して驕ることのない率直な人柄によって世間の注目を集めるようになったアメリアは、名声だけが一人歩きしていることに違和感を感じ始め、自分の操縦する飛行機で大西洋を横断するのだと心に誓い、1932年に単独飛行を成し遂げました。(2)
違和感を覚えるということは、自分に足りないものに気付くということであり、時にはこの違和感が劣等感に変わって人を悩ませてしまうこともありますが、だからこそ理想の自分に近づくための起爆剤にもなり得るのだと言います。(3)
もし、アメリアが世の中の反応に対し違和感を覚えず、その状況に満足をしてしまっていたならば、1932年の単独飛行は実現されていなかったかもしれません。
ほこりっぽい飛行場で、女性にとっては快適とは言えない環境の中、飛行訓練を続けていたアメリアは、もっとも重要なのは行動を起こすことであり、やると決めて粘り強く続けていれば願う結果がついてくるものなのだと、次のような言葉を残しています。
「最も困難なことは『行動する』と決断することであり、あとはただ粘り強さが必要なだけなのです。恐怖とは張り子の虎です。自分がやると決めたことはどんなことでもでき、人生を変えることもコントロールすることもできるのです。そして、その方法やプロセスは行動した人に与えられる褒美なのです。」
心理学や脳科学では、人が緊張、不安、恐怖を感じることなく自然に行動できる範囲を「コンフォートゾーン(快適な領域)」という言葉で表現しますが、現状よりも大きな夢や目標を達成するためには、現在のコンフォートゾーンも変えていく必要があるそうで、だからこそ多くの人は夢に向かっていくことに対して難しさを感じてしまうのかもしれません。(4)
しかし、大きな夢や目標を設定することで新しい知識や人脈を求めるようになるなど、無意識的に今までしてこなかった行動を起こすようになり、それが自然とコンフォートゾーンに変化を与えていくことに繋がるため、アメリアの「行動することが大切だ」という考えにも通じるものがあります。
ソフトバンクの孫正義氏も、自分の道をどんどん切り開いていった人物として知られており、例えば、周囲の反対を押し切って日本の高校を中退し、アメリカの高校に入学したり、高校の教科書のレベルでは物足りないからと、大学試験検定を受ける許可を得るため校長に直談判をしたり、学生時代から自ら決断し行動していたことがうかがえます。
さらに、大学試験検定を受けるには英語の部分でハンデがあるからと、辞書の貸し出しと試験時間の延長を州知事に直接求め、その要求はすべて認められたそうです。まさに、「自分がやると決めたことはどんなことでもでき、人生を変えることもコントロールすることもできる」というアメリアの言葉を証明しているようです。
世界一周飛行という目標に果敢に挑んだアメリアは、残念ながらその挑戦の途中で命を落としましたが、彼女が父親にあてた手紙に「この世界一周飛行が成功することを願っているけれど、失敗に終わってもこの挑戦にはやりがいを感じています」と記しているように、人生は成功することよりも、粘り強くチャレンジしようとするその行動に本当の価値があるのです。
日本では「満を持す」という言葉があるように、前もって十分な準備をすることが良いと考えられていますが、ITの世界だけでもパソコンや携帯などが目まぐるしく変化しているように、待っていてはあっという間に取り残され、チャンスを逃してしまうリスクのある今の時代、アメリアのような「行動すると決断する力」が夢を実現するために、より重要になってくるのかもしれません。(5)
1.リチャード・テームズ 「アメリア・イヤハート」 (1999年、国土社) P14
2.リチャード・テームズ 「アメリア・イヤハート」 (1999年、国土社) P20
3.奥田 浩美 「人生は見切り発車でうまくいく」 (2014年、総合法令出版) Kindle 524
4.苫米地 英人 「コンフォートゾーンの作り方」 (2010年、フォレスト出版) Kindle 755
5.奥田 浩美 「人生は見切り発車でうまくいく」 (2014年、総合法令出版) Kindle 262