エリザベス・ギルバード 作家 『食べて、祈って、恋をして』
1000万部のベストセラーの続編は失敗だったけど、それでもよかったの。
フェイスブックなどのSNSで、より多くの人から「いいね!」をもらう、いわゆる「人気コンテスト」がものさしになり、人々の価値観は、分野を問わず固定化してきています。
学校、収入、人間関係、恋愛、そして趣味でさえ、大多数が高く評価するものほど良いものと思われがちな世の中は、人々に自分らしい生き方を送りづらくさせているのかも知れず、『心の力』の著者である姜尚中も、現代人の考え方を次のように描写しています。(1)
「今は、自分が生きている世の中が生きづらいと思ったとき、多くの人がそれについていけない自分の方を否定しがちです。 世の中がおかしいと思っても、自分のほうを曲げてそこで成功しようとするのです。」
作家のエリザベス・ギルバードは、著書『食べて、祈って、恋をして』が世界40カ国以上で翻訳され、累計1000万部を超える大ベストセラーを記録するという大成功を収めた後、周りからの大きすぎる期待や、次も成功しなければならないという自分に対するプレッシャーに押し潰されそうになり、作家を辞めて田舎に戻ろうかとまで思いつめるようになったといいます。
しかし、その絶望にも似た感覚は、作品が世に認められず、何度も「田舎に戻ろうか」と考えながら執筆していた昔の自分が感じていたこととどこか似ていて、失敗しようが成功しようが、自分にとって「戻る」場所は田舎にはなく、いつも「書くこと」にあるのだと気づいたそうです。
エリザベスは、今は、評価や成功を得ることよりも、自分自身が愛すること、つまり「書くこと」を「home(居場所)」として、それを大事にすることが優先だと悟り、たとえ突然の出来事によって「home」から締め出されたとしても、また取り戻せばいいのだと考えられるようになったと、次のように述べています。
「恐れていた『食べて、祈って、恋をして』の続編を出せました。その本がどうなったか?失敗でした。でも、気になりませんでした。もう何にでも耐えられそうでした。呪縛から解き放たれ、書くことが好きだから書くという自分の居場所に戻れたからです。」
『がんばりすぎるあなたへ』を執筆したカウンセラーのジェフ・シマンスキーは、行き過ぎた完壁主義に陥った人たちは、たとえその思考が「普通」ではないと理解していても、完壁主義から抜け出すように周りから諭されると、「普通の人間になれというんですか?」と反発すると言いますが、その原因となっているのは、エリザベスがかつて取り憑かれていたように、失敗への恐怖や、他人を失望させたくないという思いだったりすると述べています。(2)
確かに、どれほど失敗を防いで完璧なものをつくり、全ての人から認めてもらおうとしても、実際は、世間から批判されないものなど世の中には存在せず、作家の村上春樹も、他人を楽しませるよりも自分が楽しめることのほうが大事なのだと、次のように語っています。(3)
「全員を楽しませようとしたって、そんなことは不可能ですし、こっちが空回りして消耗するだけです。それならいっそ開き直って自分が一番楽しめること、自分が”こうしたい”と思えることを、自分がやりたいようにやっていればいいだけです。」
ある病院の看護士が、「最も後悔していること」を患者に尋ね、記録を取り続けたところ、多くの人に共通していた答えは「他人が期待する人生ではなく、自分自身に正直な人生を生きる勇気があればよかった」という結果になったそうですが、結局のところ、満足感を得られるかどうかは、自分が大事にしていることに正直であったかどうかであり、SNS上などでの他人の評価に惑わされてしまえば、自分にとって本当に価値あるものを見失ってしまうかもしれません。
エリザベスが「成功しなければならない」という呪縛を解くことができたように、自分が「こうしたい」という感情を優先する気持ちひとつで、「~しなければならない」という完璧主義から解き放たれ、他人が判断する成功や失敗に左右されない、自分にとって意義ある人生を歩めるのではないでしょうか。
参考資料:
1.姜尚中『心の力』(集英社、2014年) Kindle 638
2.がんばりすぎるあなたへ 完璧主義を健全な習慣に変える方法/ジェフ•シマンスキー Kindle 98, 124
3.村上春樹『職業としての小説家』(スイッチパブリッシング、2015年) P253