小栗 上野介
日本人の勤勉さをもってすれば日本は海外に負けない強い国になる
明治維新では、多くの人物の手によって社会が大きく変わり、近代化を成し遂げようとしました。
それを手掛けた人物の一人である小栗上野介は、日本で初めての株式会社である「兵庫商社」を設立したり、横須賀造船所を立ち上げるといったことを成し遂げたことで知られており、東京証券取引所を立ち上げた渋沢栄一氏のような日本の将来を担っていた人物に多くの影響を与えています。
150年後の現代があるのは、小栗上野介のどうにかしなければという情熱のおかげと言っても過言ではありません。
そもそも小栗が日本の将来を案じるようになった最初のきっかけは、江戸幕府に仕えていた井伊直弼によって海外視察の一行に加えられ、アメリカの工業化した様子を目の当たりにしたことでした。
特にワシントンで造船所を見学したときには、日本の鍛冶屋に何日もかかる仕事が、機械によってものの見事に一瞬で作業されていたことに圧倒されたのだそうです。
日本を「木の国から鉄の国に変える」ということが実現できなければ日本の将来は危ないという危機感を募らせた小栗は、神奈川県に横須賀造船所の建設を計画するなど、周囲の反論をもろともせずに海外の文化を取り入れていきました。
世界三大提督の一人と言われている東郷平八郎は、「日本海海戦の勝利は 、小栗さんが横須賀造船所を造っておいてくれたおかげ」と述べています。
小栗が誰よりも行動していたからこそ、まだ袴を履き、刀を腰に差していた時代に日本の将来を想像できていたのです。(1)
また、当時の日本は海外と貿易をする際に、日本は個人事業主のような商人が取引をしていました。それによって、大きな組織をつくり圧倒的な資本で取引を望む海外の商社とは力の差ができてしまい、契約内容について海外商社の言いなりになるしかないといった日本側が不利益を被っていたのです。
小栗はその対策の一つとして、各商人が資本を出し合って一つの組織をつくる「兵庫商社」という日本で初めての株式会社の創設を成し遂げています。
このように小栗上野介は優れた先見性と圧倒的な行動力で、当時の日本を変えようと奮起していた人たちを巻き込み、未来を見据えたことを一つ一つ積み上げて行きました。
その姿を知る明治維新のリーダー的存在であった大久保利通は、明治時代の日本の発展は、小栗上野介の構想を現実化したものだというように表現しています。(2)
小栗上野介が次々と行動を起こすことができたのは、日本人の勤勉さをもってすれば日本は海外に負けない強い国になると一番に信じていたからです。
そんな小栗は同僚とよく揉めごとを起こしており、何度も幕府での仕事を解雇されていたそうですが、経済に詳しく、外国事情もよく知っている小栗は勘定奉行、陸軍奉行、軍幹奉行のような幕府の役目に就いては、古い考えを持つ上司と衝突し、辞任をして、また再任されるということを繰り返していました。
結果、「お役替わり七十数度」とまで噂された小栗でしたが、何度も解雇されては再度幕府から新しく役目をもらっていることを考えると、小栗は幕府にとって代わりのいない貴重な人材であったことがわかります。(3)
いつの時代であっても、小栗のようにあらゆる問題を解決に導くために行動できる人材は信頼され重宝されるものです。
何度役目をクビになっても粘り強く向き合うことについて、早稲田大学理工学部名誉教授である加藤締三氏は次のように述べています。(4)
「実は我々は日常的にあまりにも多くの出来ることをしないままにしている。手段を『思い付かなかった』と言うことだけで出来ないと諦めている。手段、方法がないのなら仕方ない。しかし手段、方法はあった。単に手段、方法を思い付かなかっただけのことである。その思い付かないことが無気力なのである。」
小栗のように、明治維新で日本の文化が大きく変わろうとしていた時に、周りから批判を浴びたとしても、悲観的に考えず、ただひたすら行動するということは、簡単ではないのは確かです。
これは現代であっても同じであり、たとえ、良いアイデアを持っていたとしても、他人から非難を受けることを怖がって行動できないのはもったいないとしか言いようがありません。
どんな難しい問題が立ちはだかっていたとしても、粘り強く気力を失わずに、アイデアを実現する方法を探し続けることさえできれば、自ずと道筋が見えてくるのではないでしょうか。
1. 村上泰賢,「小栗上野介-忘れられた悲劇の幕臣」 (平凡社 ,2010) kindle80
2. 村上泰賢,「小栗上野介-忘れられた悲劇の幕臣」 (平凡社 ,2010) kindle49
3. 童門冬二,「小説 小栗上野介―日本の近代化を仕掛けた男」(集英社 ,2006) kindle167
4. 加藤諦三,「「ねばり」と「もろさ」の心理学―逆境に強い人、弱い人」(PHP研究所,2002) kindle249