南谷 真鈴
自分とは探検してみなければわからない大きな謎。自分が何をやりたいのかは、いろいろやってみないとわからない。
早稲田大学の学生である南谷真鈴は、学生アルピニストとして日本人史上最年少となる19歳でエベレストの登頂を果たし、その年に世界7大陸全ての最高峰登頂を達成しました。
世界最高峰であるエベレストをも制覇した南谷真鈴ですが、彼女にとって山登りとは、自分自身と向き合うための最も優れたツールなのだそうです。
南谷は7大陸登頂をかけてアラスカにあるデナリという山を登っていたとき、くじけそうな自分や、自分の意思を貫こうとする自分、楽しければいいじゃないかと考える自分など様々な自分を知ることになりました。そして最後には「必ず登頂する!」という強い情熱を持った自分に出会ったのだと語っています。(1)
「やりたいということは、やらせてあげよう」という両親の方針のもと、好奇心旺盛だった南谷は小さい頃からピアノやバイオリン、マリンバなどの楽器を習うとともに、油絵や水彩画、陶芸、さらにはバレエとバトンなど、とにかく知らないことはなんでもやってみたそうです。
自分の知らない世界に思い切って飛び込んでみると、それまでの自分の世界がガラリと変わってしまうような感覚を覚えるものですが、興味を持ったことをなんでもやってみるのは自分を形作るプロセスにおいて欠かせないことなのかもしれません。
例えば「コーヒーにしますか?紅茶にしますか?」といったなんでもない質問に答えるだけでも、自分はこういう場面でこう行動する人間だということが自分の構成要素として確立されるのだといいます。(2)
あまり知られていませんが、プロ棋士の羽生善治さんは将棋だけでなくチェスの腕も一級で、初めて出場したチェスの大会で優勝すると、その後チェスの日本チャンピオンとなり、将棋の練習の合間をぬって英語を勉強しては世界中で開かれているチェスの国際試合に参加しているそうです。
そんな羽生さんは、小さい時にいろんなことに取り組む中で、自分が打ち込みたいと思えるか思えないかという基準を身につけることができれば、周囲の評価や結果を気にすることなく、どんな物事に挑戦していけると語っています。(3)
南谷の場合、13歳の時に学校のハイキングで香港のヴィクトリア・ピークという山を登った時に、山が自分の心に迫ってくるという感覚と頂上にたどり着いた時の爽快感をきっかけに山登りの虜になったのだそうです。(4)
山を登るたびにそれが自分の心と向き合うための最良の方法だと思うようになった南谷は、山が自分にとって一番の先生だったとして山に対する特別な思いを次のように語っています。
「私には山から学ぶことが本当にたくさんあったのです。山に登ること自体が瞑想のようで、心のモヤモヤが晴れて、落ち着いて自分を見つめ直すことができた。そのとき、私はもっと人生を自分の意思と選択でコントロールして、自由に自分らしく生きていきたい、そう思ったのです。」 (5)
雪山を登っていると今にも落ちてきそうな氷の塊の下を通過したり、深い氷河の割れ目の上をはしごをかけて渡ったりする時など、「ここで足を踏み外したら死ぬな」といった具合に死を意識する瞬間が必ず存在します。
Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズは「死とは人間に与えられた最高の贈り物」と語っていますが、死を前にすると人は自分が本当にやりたいことというのを否が応でも感じざるをえません。
ソフトバンクを築いた孫正義さんも、若い頃に会社を起業してから間もなく重病にかかって入院した経験があるそうで、この「人間、いつ死ぬか分からないな」という感覚を持つと人は必死に自分の人生を生きるようになり始めるのではないでしょうか。(6)
エベレスト登頂を果たし、世界七大陸最高峰を制覇した南谷の次なる挑戦はヨットで世界を一周することだそうです。
そして、それを達成することで「本当に何も不可能はない。ただ熱意と活動量が必要だ」というメッセージを届けたいと語ります。(7)
人が「やめておけ」と言うことを実現してゆく、強い意志を持った彼女の姿を見ていると、自分がやりたいと思ったことに挑む経験こそが、自分らしさを作ってくれる材料になるんだということがよく分かります。
1. 南谷真鈴「自分を超え続ける―熱意と行動力があれば、叶わない夢はない」(ダイヤモンド社、2017年)Kindle
2. 羽生善治「迷いながら、強くなる」(三笠書房、2013年)Kindle
3. 羽生善治「迷いながら、強くなる」(三笠書房、2013年)Kindle
4. 南谷真鈴「自分を超え続ける―熱意と行動力があれば、叶わない夢はない」(ダイヤモンド社、2017年)Kindle
5. 南谷真鈴「南谷真鈴 冒険の書」(山と溪谷社、2016年)Kindle
6. 大下英治「孫正義 起業のカリスマ」(講談社+α文庫、2013年)Kindle
7. 南谷真鈴「南谷真鈴 冒険の書」(山と溪谷社、2016年)Kindle