ストーリー

One Life, One Thought
Vol. 67

ティム・バートン

奇妙さこそが自分らしさ

2017/10/20

Illustrated by KIWABI - Timothy Walter Burton

「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」や「アリス・イン・ワンダーランド」といった数々の大ヒット作を世に生み出し、一目見れば彼の作品だとわかる独特の世界観を持つ映画監督ティム・バートンは、多くの作品の中で「シザーハンズ」の主人公エドワードに代表するような”アウトサイダー”に優しい視線を注いできました。

その背景には、ティム自身が子供の頃から怪獣映画ばかりを見ていたことを理由に、周りの人々からずっと「変なヤツ」と呼ばれ続けてきたことが大きく関わっているのだそうです

ティム・バートンの世界観の背景には「変なヤツ」と呼ばれ続けてきた経験がある

↑ティム・バートンの世界観の背景には「変なヤツ」と呼ばれ続けてきた経験がある(リンク

2016年に公開された「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」において、ティムはまさに「変なヤツら」に焦点を当てており、物語中では、空気を自由に操れる女の子や、透明人間といった特殊な能力を持つ子供達が一つの家に集まって共同生活をしています。

その作品は、周りに馴染めず孤独な生活を送る少年ジェイクを主人公にしているのですが、ティムは彼に対して「ジェイクが感じてきたことや思うことは、まさに僕自身も実際に経験してきたことなんだ」とインタビューの中で語り、以下のように述べました。

「ジェイクのぎこちなさや場違い感、繊細でありながら物静かで言葉をあまり発しないようなところが、自分にとっても響いたよ。僕も、子どものころに他人から変わっていると思われていたからね。自分自身で奇妙だと思ったことはないんだが、周りからそういったレッテルを貼られてきたんだ。」

作品の主人公に、「変わっている」とレッテルを貼られていた子ども時代の自分を見た

↑作品の主人公に、「変わっている」とレッテルを貼られていた子ども時代の自分を見た(リンク

ティムは、子ども時代に怪獣映画ばかりを見ていたせいか「奇妙な子」として扱われていたため、人々から隔てられているという感覚を常に持ちながら生活していたのだといいます

しかし彼は、多くの芸術作品は悲しみの中から生まれてくるものであり、クリエイティブという視点で考えるとマイナスな気持ちは決して悪いものではないのだと述べ、次のように語りました

「奇妙さこそが自分らしさなんだと受け入れ、肯定することで自分の力にしていったんだよ。」

奇妙さこそが自分らしさ

↑奇妙さこそが自分らしさ(リンク

ティムは孤独を排除するために個性を潰すのではなく、「奇妙さ」を自分らしさと受け入れて糧とすることで、唯一無二の存在として上り詰めましたが、社会はなかなか個性を受け入れてはくれません。

社会は教育を通じて、「みんなと同じ事をしなければならない。学校へ行ったら一人でも多くの友達を作らなければならない」と“普通”になる事を強要してきます。(1)

現在のような一定の年齢に達した子供を一か所に集め、読み書きや計算を教える学校制度は産業革命期のイギリスで生まれたもので、この目的は「望ましい工場労働者」を育て上げることでした。(2)

学校は「使いやすい労働者」を大量生産するために、個性を剥ぎ取り、規格通りの人間に仕上げようと同じテキストを暗記させ、同じ基準でテストの採点をし、生徒を評価するため、少しでもみんなと違う生徒がいれば「普通ではない」と厄介がるのです。(3)

社会は普通になる事を強いてくる

↑社会は普通になる事を強いてくる(リンク

ティムの場合は、他の人が自分の事をどう捉えているかというのを受け止めるのに、とても長く時間がかかったのだそうですが、奇妙さをポジティブに捉えられるようになったのは、高校時代の美術の先生のおかげだといいます

その先生から、自己表現とは何かを教わったのだといい、ティムは絵を描くことを通して自分の内側にあった「奇妙さ」を外側に表現できるようになり、奇妙さも自分の個性としてアートになることを知り、自分自身を受け入れることができるようになったのです。

奇妙さを受け入れるまでに長い時間がかかり苦しんだ彼だからこそ、映画「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」の中では「変でもいいんだよ」ということを多くの人に伝えたかったのだそうです。

「変でもいいんだよ」

↑「変でもいいんだよ」(リンク

「変なヤツ」であることを受け入れ、それをアートとして昇華させたティムの姿は多くの人に「普通でなくたっていい」というメッセージを伝えてくれています。

「普通がいい」という産業革命時に作られた価値観に別れを告げ、たとえ周りと違ったって、みんなから変なヤツだと言われたって、それを自分にしかない大切な個性として受け入れることで、それが自分の力となり、もっとこの世界を楽しく生きていくことができるのではないでしょうか。

参考書籍
1. 森 博嗣「孤独の価値」(幻冬舎 、2014)kindle p733
2. 堀江貴文「すべての教育は『洗脳』である」(光文社新書、2017)kindle 205
3. 堀江貴文「すべての教育は『洗脳』である」(光文社新書、2017)kindle 220