カール・ラガーフェルド
孤独は人間に与えられた最高の贅沢。
4歳でディナー用の服を持ち、他の子どもがセーターに短パンの中、一人ネクタイにシルクシャツという出で立ちで過ごしていた、ドイツ出身のファッションデザイナー、カール・ラガーフェルドは、自分は他人とは違っていずれ有名になると確信していたと、幼少期を振り返っています。
「周りの子ども達はエレガントじゃなかったから」と周りの友達と遊ぶことを避けていたカールにとっては、孤独でいることは至って自然なことでした。その頃から習慣としていた読書やスケッチは、今でもカールの創造力の源泉となっています。
カールは、スケッチにシュウ・ウエムラのアイシャドウを使うという独特のスタイルを持っており、映画『カール・ラガーフェルド スケッチで語る人生 』の中では、名前が挙げられた人物や出来事を次々と描いては捨てるカールの様子を垣間見ることができます。
ある研究では、言葉での情報を聞きながら落書きやスケッチすることで、情報を整理して考えることができるために、描くことで、描かない場合よりも29%高い記憶力を発揮させるという結果があり、また、独創的な問題解決や 難解な情報処理をする際にも大きな効果も期待できるとされ、 アブダビなどの偉大な文化遺産もスケッチが元になったといわれているものが多くあります。
シャネルやフェンディなどのファッションブランドのみならず、リゾート地のデザインなども手がけるカールにとって、スケッチは情報を整理して、創造に必要な力を活性化させるために欠かすことのできない作業といえるでしょう。
カールは、スケッチや読書など、創造や研究にとって大切な時間を奪われたくないため、華やかな世界にいながら週末の48時間は誰とも会わずに一人きりで過ごし、結婚や子供さえもいらないと語っており、次のようなコメントを残しています。
「創造的な仕事をするためには、孤独になり充電する必要があり、一日24時間スポットライトに照らされるように生きてしまうと、創造的になることはできない。私のような人々にとっては孤独でいることこそが勝利だ。」
あのピカソも「深い孤独がなければ、まともな作品は作れない」と語っていますし、ニュートンも万有引力に関する論文の執筆に際し、2年間ほとんど一人きりで引きこもっていたと言われていますが、カールも、一日50件もの着信がありながらFAXを愛用していて、電話に邪魔されたくないと考えていました。その理由をカールは次のように語っています。
「携帯電話が鳴ったり邪魔される状態でどうやって人々は今に集中することができるのだろうか。私にとっては空想する事が最も重要であり、自分の脳内をフル活用し、スケッチ、読書、音楽、手紙を書く事で孤独を感じたことはなく、すべてを超える最高の贅沢な時間だ。」
平均的な会社員には、仕事中に、11分に1回の割合で、なんらかの邪魔が入るというリサーチデータもあり、まとまった時間を確保することがどんどん難しくなっている現代では、一人きりでやりたいことに集中する時間は、「孤独」ではなく、とても贅沢なものといえるかもしれません。
情報社会の先端を行くlinkedinの社長、ジェフ・ワイナー氏も、周囲の人々が忙しさのあまり自分を見失うところを目にしてきた経験から、毎日合計2時間の空白をスケジュールに組み込んで、その時間には何があっても予定は入れないようにしているおり、その効果を次のように語っています。
「最初はさぼっているような気分になったが、生産性が確実にアップして自分の為の時間を確保することで、人生の主導権を取り戻せた。」
一人で自宅に篭り自らのデザインチームを、二週間も待たせてしまうこともあるカールですが、元々「孤独」という言葉は、寂しさを表現する言葉ではなく神との一体経験を意味する言葉であったそうです。
「孤独を味わうことで、人は自分に厳しく、他人に優しくなれる。いずれにせよ、人格が磨かれる。」とニーチェが述べているように、カールも「孤独こそが勝利だ」と語っています。
いつどこにいても他者と繋がれる仕組みが日々進化している現代社会だからこそ、自ら孤独を勝ち取ることが、人生を豊かにする上でとても重要な要素になり得るのかもしれません。