ストーリー

One Life, One Thought
Vol. 62

アメリカのトーク番組史上最高の司会者 オプラ・ウィンフリー

本当に大切な問いは『自分とは何者で、自分という存在を持ってして、何をしたいのか?』ということ。

2017/09/15

Illustrated by KIWABI - Oprah Gail Winfrey

司会者としてトークショーの冠番組を持つばかりか、ケーブルテレビチャンネルや月刊誌まで持つオプラ・ウィンフリーは、20世紀以降の米国で最も裕福なアフリカ系米国人と言われ、2010年にはフォーブス誌の世界で最も影響力のある女性に選ばれました。

現在では総資産額30億ドルとも言われる大富豪となり、慈善家として社会貢献活動に熱心であることで知られる彼女ですが、非常に辛く貧しい環境の家庭に生まれ、壮絶な人生を送ってきたことをを自ら語っています。

10代の未婚の母の元に生まれたオプラは、幼い頃は祖母や親戚の家に預けられて育ちました。当時は着るものにも不自由するような暮らしで、ジャガイモの収穫の際に入れる麻袋を服として着ていたり、9歳の頃から近親者による性的虐待を受け、14歳の時には出産を経験しており、その時生まれた赤ちゃんは出産後すぐに亡くなってしまうなど、多くの辛い過去があったのだといいます。

ジャガイモの麻袋を服として着ていた女性が今では総資産30億ドル

↑ジャガイモの麻袋を服として着ていた女性が今では総資産30億ドル(リンク

性的虐待や黒人差別を受けた辛く厳しい経験も包み隠さず話し、番組に出演する相談者の悩みを親身に聞くオプラのスタイルと人間性が評価され、彼女のトーク番組は非常に人気がありますが、彼女が現在の地位まで上り詰めたのは、「自分が何者であるかを理解している」からだといい、自身の性格や価値観、やりたいこと、やりたくないことを正確にわかっているからこそ、彼女は現在のような成功を手にしていると語っています。

元々はテレビ局のアンカーウーマンとしてキャリアをスタートさせた彼女ですが、その仕事では「世間が求めるもの」と「自分が真実だと思うこと」との狭間で苦しんだといい、放映中に感情的になってはいけないと言われたり、自分の意見が言えず、原稿を読み上げるだけのアナウンサーという仕事が自分には向いていないことを悟ったのだといいます。

トーク番組の司会者として成功した彼女がいるのは、こうした経験を通して「やりたくないこと」がわかったからであるからだと次のように述べました

「自分がやりたくないことをわかっている、というのは、やりたいことがわからない時には一番いいわ。やりたくないことを自分でちゃんとわかっていれば、本当にやりたいことは何かを探すことができるのよ。」

やりたくないことがわかっているのはやりたいことを探すための第一歩

↑やりたくないことがわかっているのはやりたいことを探すための第一歩(リンク

アンカーウーマンの仕事は多くの人にとっては華やかな仕事であり、続けていけばもっとお金も稼げると分かっていたそうですが、オプラにとってその仕事はやはり不自然であったため、常に「私が本当にしたいことは何かしら、何かしら」と自分の心の中で問い続けたといいます。

実際にアンカーウーマンとしてのキャリアから外れ、テレビ番組の司会者を始めようとした時には、親友の一人以外からはみんなに失敗すると言われ、できるわけがないと反対されたそうです。

しかし、彼女は自分の心の声に耳を傾け、自分と向き合い、自分を信じたことで現在まで上り詰めることができたのだといい、次のように述べています。

「本当に大切な問いは『自分とは何者で、自分という存在を持ってして、何をしたいのか?』ということ。」

自分が何をしたいかは自分にしかわからない

↑自分が何をしたいかは自分にしかわからない(リンク

ある看護師が死期の近い患者たちに対して行った「最も後悔していることは何か」という調査によれば、一番多く共通していた答えが「他人が期待する人生ではなく、自分自身に正直に生きる勇気があればよかった」というものだったといいます。

人々は人生がもうすぐ終わると知り、冷静に振り返ってみた時に、自分がかつて夢見た多くのことが達成されていないことに気づきますが、その多くの原因は自分のした選択によるものです。

その選択には、夢を追いかける前にまず経済的な安定を求めたり、やりたいこと以上に世の中が自分に期待することを優先する私たちの心理が関係しており、「子供が大きくなって経済的にも落ち着いたらカフェを開こう」「とりあえず大学に進学して、安定している企業に就職しよう」など、私たちは常にリスクを回避し、夢を追いかけることを先延ばしにします。

死ぬ時に最も後悔するのは、自分自身に正直に生きなかったこと

↑死ぬ時に最も後悔するのは、自分自身に正直に生きなかったこと(リンク

東京大学の名誉教授で政治学者である姜尚中は、現代人は自分が生きている世の中が生きづらいと思ったとき、多くの人がその原因は自分自身にあるのだと自分の方を否定しがちだといい、私たちは社会に適合するように自分を捨てようとします。(1)

しかし、世の中が生きづらいと感じるのは、自分のやりたいことよりも社会の期待に応えることを優先しているためなのでしょう。情報に溢れ、周りの雑音が多い現代だからこそ、もっと自分の内なる声を信じて行動しなければ、いつまでたっても生きづらいまま何も変わることはありません。

周りの雑音に流されている人にとっては情報に溢れた現代社会は非常に生きづらい

↑周りの雑音に流されている人にとっては情報に溢れた現代社会は非常に生きづらい(リンク

オプラは内なる声を「心のGPSシステム」と呼び、それは本能とつながっていて自分にとってのベストな選択をもたらすものだと語っています。

私たちも彼女のように内なる声に耳を澄ませ、「心のGPSシステム」に従って生きていくべきなのではないでしょうか。

きっとそれは私たちを正しい場所へと導いてくれるはずなのですから。

参考書籍
1.姜尚中「心の力」(集英社、2014年) Kindle 638