岡本太郎 芸術は爆発だ!
面白いねえ、実に。オレの人生は。だって道がないんだ。目の前にはいつも、なんにもない。
「芸術は爆発だ」という言葉で多くの人に知られている岡本太郎ですが、生きるということに真っ正面から向き合った彼は自分の人生について、「売れなくても構わない、好かれなくてもいい、認められなくてもいい、成功しなくてもいい」と語っています。
岡本太郎はそうした生き方を実践するために、分岐点に立った時はいつどんな時も見通しのついた安全な道ではなくて、その方向に進んだら自分はいったいどうなってしまうんだ?!という危険を感じる道を選択すると心に決めていました。
「危険だ」という道は必ず自分が行きたいと思っている道なのであり、危険な道を進んだことによってうまくいったとか失敗したということよりも、あえて危険な道を選ぶ生き方こそ本当に“人間らしく”生きる道であるのだと考えていたのです。(1)
画家としての夢を抱き18歳でパリへ渡った岡本太郎は、日本と異なる文化体系のヨーロッパで生活する中で自分自身のアイデンティティと向き合った時に、燃えるような情熱はあってもその向かうべき方向を見定めることができず、ソルボンヌ大学の哲学科の授業に度々通っていたといいます。
その中で、生きるとは自分自身を愛し、自分の世界を広げて懸命に生きようとする衝動だけではなく、すべてを冷たく拒絶し死へ向かっていこうとする情動もあることを悟り、単に自分を可愛がるだけではなく、危険な選択を行い、安易な生き方をしようとする自分を敵だと思って闘うことで、エネルギーが爆発し生命が輝くのだと思い至りました。(2)
そして「絵描きは絵の技術だけ磨けばいい」というような当時主流だった考えに反発し、ただキャンバスの中に美しい作品を描き上げることに留まらず、生涯自分という人間の全存在、生命それ自体が完全燃焼するような生に賭けることを誓ったのです。
岡本太郎の日本での活動は、その時の決意を実践するためのもので、太平洋戦争突入直前にパリから日本へ帰ると、そこからは「アンチ日本人」を前面に出して日本人のワビ、サビ、シブミといった芸術の通念に、鮮やかな赤、青、黄色という原色をぶつけ、芸術だけにかかわらず日本のあらゆる問題について「ノー」と言い続ける危険な道を歩み続けました。(3)
そこには自分の生活とか画家としての成功を気にかける様子はなく、「そんなことをしていたら社会から消されてしまいますよ」と言われたときも「消されるなら、それで結構。とことんまで闘うよ」と語り、自分の命を投げ出す気持ちで、瞬間瞬間を生きていた様子が伺えます。(4)
スティーブジョブズも「自分の中のうちなる声を聞け」と言っていますし、『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』の著者マルコム・グラッドウェルによれば、瞬時に下した判断も、慎重に時間をかけて判断した決断と決して見劣りしないと述べていて、危ない理由をあれこれ並び立てていても、みんな本心では自分のやりたことはわかっているのではないでしょうか。(5)
岡本太郎の代表作のひとつである「太陽の塔」も大阪万博のテーマだった「人類の進歩と調和」に対して、建築界の巨匠である丹下健三の作った大屋根をぶち破って太陽の塔を作って訴えた「本当の調和はぶつかり合うことで生まれる」というメッセージが多くの人の共感を呼んだため、万博の終わった後も壊されずに保存されています。
禅語には「本来無一物」という言葉がありますが、これは人間は本来何一つ持たずに生まれてきたのだから執着するものなど何もないという意味だそうです。例え「危険だと思う道」を選択したことで何かを失ったとしても、誰だってまたそこから始めることができるのです。(6)
安全牌な生き方を送るのではなく、怖かったら怖いほど逆にそこに飛び込んでいくという生き方を貫いて生涯を終えた岡本太郎の生き方に学んで、私たちも日々の一瞬一瞬に自分の持てるすべてを出し尽くすことを続けていけば、新たな自分を発見し、人生をもっともっと色鮮やかなものに彩ることができるのだと思います。
1.岡本太郎「美しく怒れ(角川oneテーマ21)」(2011年、角川書店)Kindle 883
2.岡本太郎「美しく怒れ(角川oneテーマ21)」(2011年、角川書店)Kindle 1830, 1839
3.岡本太郎「自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間”を捨てられるか」(1993年、青春文庫)Kindle 106, 114
4.岡本太郎「自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間”を捨てられるか」(1993年、青春文庫)Kindle 185
5.Malcolm Gladwell「Blink: The Power of Thinking Without Thinking」(Penguin、2006年) Kindle 151
6.升野俊明「心配事の9割は起こらない」(2013年、三笠書房)124,125 ページ