ストーリー

One Life, One Thought
Vol. 90

若宮正子

『もし笑われたら恥ずかしい』ときは、一緒に笑ってやろう

2018/06/28

最高齢開発者としてAppleに認められたコンピュータープログラマー、若宮正子さん。実はパソコンを真剣に習い始めたのは、定年が差し迫り、職場を退職する60代前半でした。

その20年後の82歳の時には、若宮さんはiPhoneアプリを開発するプログラミング言語であるswiftを習得し、hinadanというゲームアプリを開発しリリースしています。

このhinadanというアプリは、ひな壇に男雛と女雛を正しく配置するゲームです。今までのアプリはスマ―トフォンを使い慣れている人向けのものであるのに対して、画面をタッチするだけで遊べるようなスマートフォンに慣れていないお年寄りでも楽しめるように作成されています。

開発者の年齢層を広げることに力を入れているAppleは、若宮さんのような開発者は業界に良い刺激を与えると考えており、若宮さんはAppleからアプリ開発者向けのイベントに講演者として招待されることになったのです。

お年寄りでも楽しめるアプリはシニア世代がスマートフォンに触れるきっかけになった

↑お年寄りでも楽しめるアプリはシニア世代がスマートフォンに触れるきっかけになった(リンク

もともと好奇心旺盛で周りの人とコミュニケーションをとることが好きだった若宮さんがパソコンを始めたきっかけは、母親の介護中に一歩も外にでることなく、たくさんの人とおしゃべりができるからという理由でした。

インターネット上のシニアコミュニティ「メロウ倶楽部」に入会すると、「人生、60歳を過ぎるとおもしろくなります」というウェルカムメッセージにワクワクが止まらなくなり、ますますパソコンの世界にのめり込んでいったそうです。(1)

インターネットを使って色々な人とつながれることにワクワクした

↑インターネットを使って色々な人とつながれることにワクワクした(リンク

年齢を重ねていくにつれて、新しいことを始めたり、始めたことを続けていく難しさを感じる場面は多いです。

しかし、若宮さんはシニアと呼ばれる年齢になったとしても好奇心を失う事なくパソコンを始め、iPhoneアプリを作成する学習まで続けていくことができています。

自分のように周りの目を気にせず、とりあえず始めてみることの大切さを次のように述べました。(2)

「勇気を出して、年齢の壁を取り払って実際にやってみると、きっと新しい世界があなたを待っていると思います。 『もし笑われたら恥ずかしい』ときは、一緒に笑ってやろうぐらいに開き直るのがベスト。 私なんて、だいぶ前から開き直って生きているから、『人生、後悔していることなんて一つもない』。」

勇気を出してやってみると、きっと新しい世界があなたを待っている

↑勇気を出してやってみると、きっと新しい世界があなたを待っている(リンク

好奇心を持って生活していくことの大切さは多くの著名人も述べていて、例えば、脳科学者である茂木健一郎氏は講演で語っていました。

「好奇心を持たないということは価値を見いださないことなんですね。というのは、好奇心を持っているからこそ、私達はここにいるのです。全ての素晴らしいものは、好奇心から出てくるんです。好奇心がなければ私達は『ヒト』ではないんです。」

好奇心は生きていくために一番重要だと言っても過言ではありませんが、若宮さんが年齢を重ねても好奇心を失わないのは、歳をとっていくことに対して、前向きにとらえているからでもあります。

若宮さんにとって人生はフルコースのようなもので、幼年期、少年期、青年期、壮年期、そして老年期と、それぞれのライフステージでしか楽しめないことがあると考えており、前のライフステージでは想像できなかったことに興味を持つことができるのだそうです。

好奇心を持たないということは価値を見いださないこと

↑好奇心を持たないということは価値を見いださないこと(リンク

医療の進歩が進み、寿命が延びて100年は生きていくであろうと言われているなかで、若宮さんのように前向きに歳を重ねていくことは重要です。

世界で最も影響力のある経営思想家にも選ばれたロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏は、何歳であろうと新しい一歩を踏み出し、長寿化時代に備える必要があるとして次のように述べています。(3)

「長寿化がもたらす恩恵は 、煎じ詰めれば 『時間』という贈り物だ 。人生が長くなれば 、目的意識をもって有意義な人生を形づくるチャンスが生まれる 。」

人生が長くなれば 、有意義な人生を形づくるチャンスが増える

↑人生が長くなれば 、有意義な人生を形づくるチャンスが増える(リンク

年齢を重ねるということに関して私たちは、体力が低下し不調が起きやすくなることや、女性であれば顔のシミや皺が増えてしまうといったようなネガティブな面に焦点を当ててしまいがちです。

しかし、時間をかけていかなければ出来ないこと、あるいは人生を長く味わえるといったポジティブなことに意識を向けることの大切さについて若宮さんは次のように述べています。(4)

「『ああ、シワもシミもたるみも出てきて、女として終わってしまう』なんて思う暇があったら、『これまでの40年間で蓄積してきたものを、今後どうやって活かしていこうか』ってワクフクする方向にエネルギーを費やしてほしいんです。いま持っている能力や人間力を、より豊かなものを生み出すためにどうやって使おうか。20歳のあなたでは絶対にできなかったことが、40歳のあなたならできるんです。」

年齢を重ねることで培った能力や人間力を、より豊かなものを生み出すためにどうやって使うかが大切

↑年齢を重ねることで培った能力や人間力を、より豊かなものを生み出すためにどうやって使うかが大切(リンク

人生100年時代に今までの生き方が参考にならなくなっているというのは、決して言い過ぎではなく、誰もが長い人生を楽しむための秘訣を探していく必要があります。

そうしたときに、若宮さんのような年齢を重ねたとしても好奇心を持ち、挑戦していく生き方の中に、充実した自分らしい人生を長く歩むためのヒントがあるのではないでしょうか。

参考資料
1. 若宮正子,「60歳を過ぎると、人生はどんどん楽しくなります」(新潮社,2017) p.1522.
2. 若宮正子,「60歳を過ぎると、人生はどんどん楽しくなります」(新潮社,2017) p.12933
3.リンダ・グラットン,「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略」(東洋経済新報社,2016)kindle3206
4. 若宮正子,「明日のために、心にたくさん木を育てましょう」(ぴあ,2017) p.71, p.116