ストーリー

One Life, One Thought
Vol. 89

杉良太郎

人生は階段を一段ずつ上がっていくことだ。一段一段踏み締めてのぼっていけば、滑って落ちることもない。

2018/06/21

NHKで放映された「文五捕物絵図」という時代劇で若き杉良太郎が主役に抜擢されて以降、入れ替わりの激しい芸能界で50年以上も活動をし「遠山の金さん」といったテレビ時代劇に出演するなどスター俳優としてだけでなく、歌手として100万枚を超えるヒット作を生み出しています。

しかしその歩んできた歴史を遡れば、貧しい暮らしから一刻も早く抜け出して母親を楽させてあげたいと上京し、知り合いのカレー屋に住み込みで働きながら芸能活動を始めたのが最初でした。

生活のために上京し、カレー屋で丁稚奉公。

↑生活のために上京し、カレー屋で丁稚奉公。(リンク

当時は来る日も来る日も3食カレーを食べて過ごし、休みは元旦だけという生活を送っていたという杉良太郎は、それでも「絶対に売れるんだ」と覚悟を決めていたからやってこられたのだとして、次のよう述べています。(1)

「人生は階段を一段ずつ上がっていくことだ。二段、三段と飛び越えてはいけない。飛び越えたら、そこにどんな落ち葉があったか、階段の隅にどんな傷があったか気がつかない。一段一段踏み締めてのぼっていけば、滑って落ちることもないだろう。人生はトータルが肝心なのだから。」

下積み時代が長くても、一段一段踏み締めていけば、滑って落ちることもない

↑下積み時代が長くても、一段一段踏み締めていけば、滑って落ちることもない。(リンク

テレビ番組に次々と出演し、スターとしてのキャリアを順調に積み重ね始めた杉良太郎ですが、その人気はやがて終わるものだと捉えていたのだそうです。

そして、収入が減ることや視聴者に忘れられるというリスクを冒したとしても、もう一度そこから這い上がれるのであれば本物だと自分に言い聞かせ、人気絶頂のさなかにいた杉は、テレビ出演をやめるという決断をしました。

テレビをやめて、そこから這い上がれるような“本物”になりたい

↑テレビをやめて、そこから這い上がれるような“本物”になりたい(リンク

テレビで人気が出たのはただの一つの現象に過ぎないと振り切って、自分自身の極めたい芸事の道をひたむきに進んできた杉は、プロにとって重要なのは“本気さ”だとしています。

それは一般受けする程度の本気さではなく、狂気を感じるほどの本気さのことであり、一般の常識を破り、常識を超えていこうとする瞬間にこそ「プロ中のプロが生まれる」として、杉は次のように述べました。

「非常識と言われるほど真剣にならなければ、人を感動させるものは到底生み出せない。非常識と言われるほどの一途さがなければ、一瞬の命の輝きも生じえない」(2)

非常識と言われるほどの一途さがなければ、一瞬の命の輝きも生じえない

↑非常識と言われるほどの一途さがなければ、一瞬の命の輝きも生じえない(リンク

役者としてひたむきに努力を続けてきた杉は、自分の芝居を観て批評できる観客が居なければ、芸を磨くことも、評価をしてもらうことも叶わないと考え、ファンや観客をとても大切にしてきたといいます。

そして、遠くから足を運んで見に来てくれる観客に楽しんでもらうために、「命を削って演じている」というほど、本気で芝居に取り組んできたのです。

例えば、舞台の最後に切腹する信康の役を演じたときも、その役になりきって「今日は俺の命日だという気迫」で役に望みました。

切腹のシーンの演出として、豚の臓器と大量の血のりを腹に巻き、刃のついた短刀で杉が自らの腹を引き裂く様子を演じたところ、観客の悲鳴やどよめきがしばらく収まらなかったそうです。その時のことを振り返った杉は、このように述べていました。(3)

「とことん自分を追いつめたかった。信康の役と一体になりたかった。それが私にとって、『本気』で演じることだったのです。」

観客に楽しんでもらうために、命をかけて演じる

↑観客に楽しんでもらうために、命をかけて演じる(リンク

貧しい環境であっても「人には親切、慈悲、情け」が口癖だった母の影響を受けてきた杉は、役者として芝居に励む傍ら、刑務所を慰問したり、ベトナムなどの発展途上国で暮らす子供たちの里親となるといった活動にも力を注いできました。

例えば、杉良太郎教育基金を設立し、障害者協会への寄付を30年以上続けるといった活動が認められ、ホノルル名誉市長の称号をうけたこともありました。

海外に自ら出向き視察しチャリティーとして舞台を演じることも続けている杉は、そういった海外での活動についてこのように述べています。(4)

「海外ではまず心だと思う。もしお金が大事なら、振り込めば済む話で、その方がずっと簡単だ。少なくとも僕が寄付をしたお金の額だけ見れば、それは決して誇れるものではないと思う。ただ、自信を持って言えるのは、自分の体を使って、一生懸命やったということである。」

Lまずは心だと思う。もしお金が大事なら、振り込めば済む話で、その方がずっと簡単だ

↑まずは心だと思う。もしお金が大事なら、振り込めば済む話で、その方がずっと簡単だ(リンク

杉良太郎は役者として生きていくと決めた時から、悔しさや苦労を乗り越えて、スターの座を勝ち取りました。

中途半端な気持ちではなく、本気で取り組む杉の姿は、ボランティア活動においても同様です。

デビューから何十年経っても、たとえワイドショーやドラマで見かけることなんてなくとも、そのような姿に一度魅了されたら、人は杉のことを忘れることができなくなるのでしょう。

杉良太郎のように、これだと決めたことに“命をかけて”というほど自分を捧げ、一つ一つ登り続けることを諦めない限り、50年、60年と、私たちは自分を磨き続けることができるのだと思います。

過去の一瞬のきらめきを武勇伝にするよりも、人生は「トータルが肝心」なのですから。

参考資料
1. 杉良太郎,「これこそわが人生」(読売新聞社,1991) p.66
2. 杉良太郎,「媚びない力」(NHK出版,2014) p.8
3. 杉良太郎,「媚びない力」(NHK出版,2014) p.78
4. 杉良太郎,「いいってことよ」(廣済堂出版,2001) p.101