ストーリー

One Life, One Thought
Vol. 83

小倉昌男

愛情を持って荷物を運べば、扱い方も自然に丁寧になる。

2018/02/22

個人配送に「宅急便」という名前を付け、全国に先駆けてサービスを始めたクロネコヤマトは、40年以上も続いており、これはお客様を第一に考えるサービスとして役立ち続けているからにほかなりません。

クロネコヤマトを生み出した当時の代表取締役、小倉昌男は「経営はロマンである」とし、宅急便を考えた時を振り返って、次のように述べています。(1)

「宅急便を考えたとき、単なる一企業の事業ではなく、社会的なインフラになるし、そうしたいと思っていた。思い上がったことだったかもしれないが、それは私の『志』だった。」

宅急便は単なる会社の事業ではない、社会的なインフラにする

↑宅急便は単なる会社の事業ではない、社会的なインフラにする(リンク

小倉は東京大学を卒業後、実父の経営する大和運輸に入社し、子会社の再建に力を注ぐなど、経営のいろはを学びました。

当時、ライバル会社である西濃運輸は設備投資を行って効率を上げ、収益を上げていましたが、その一方で、大和運輸は荷物を運び出す効率が悪く、収益も上がらないため、会社を運営する立場の人間と雇われている従業員との関係がギスギスしていたといいます。(2)

そうした状況において小倉は、善い仕事をすることで善い循環を作ろうと、次のように考えたのでした。(3)

「いい仕事をするためには、『ほれる』ことが大事だと思う。運送業でいえば、荷主さんに惚れ、荷主さんの荷物に惚れるということだ。いい意味での愛情を持って荷物を運べば、扱い方も自然に丁寧になる。結果相手からも喜ばれて、リピーターになってもらえる。会社の売り上げがあがる。」

愛情を持って荷物を運べば、扱い方も自然に丁寧になる

↑愛情を持って荷物を運べば、扱い方も自然に丁寧になる(リンク

配送会社の路線トラックは荷物を運ぶ定期便のようなものとなり、個人のお客様の荷物を対象とすることができるのにも関わらず、利益だけを考えた企業側の都合によって、売上を確実に出すことができて効率のよい大口貨物ばかりを運ぶようになってしまっていました。

その結果、一つ一つの単価が安くて手間のかかる個人の荷物は切り捨てられてしまっていたことを、小倉は次のように考えるようになったのです。(4)

「トラック会社の経営者として申し訳ない。儲からないから止めてしまう、というのでは情けないではないか。それをやるのが経営者の意地ではないか。起業家魂というと格好よいが、経営者のロマンというか、夢を追うような気持ちがあった。」

儲からないから個人の荷物は切り捨てるなんて情けない

↑儲からないから個人の荷物は切り捨てるなんて情けない(リンク

宅配事業に力を入れ、会社の売り上げも回復してきた小倉は、この事業をもっと拡大させ、このサービスを広めていきたいと考えていました。

小倉は、同業社からの反対があるなどと言って新規事業の参入に後ろ向きな役所に、サービスの拡大を足止めされていました。そのような対応に憤り、裁判を起こしたこともあります。

矢面に立って自治体や多くのライバル企業と戦う姿を見せた小倉は、その理由を次のように語りました。(5)

「経営トップがひとり高い倫理を誇っても、社徳の高い会社にはならない。社員全員の倫理性が高くてこそ、社徳の高い会社といえるのである。それにはまず、トップが先頭に立ち、高い目標を目指して歩まなければならないのである。」

現代社会では当たり前の宅急便という言葉も、小倉が小口配送を本格的に始める際に「ネーミングは商品の売り上げを左右するほど重要」と、自身で考え出したもので、リズムがあって口ずさみやすいことからこの名前に決めたそうです。

リズムがあって口ずさみやすい「宅急便」

↑リズムがあって口ずさみやすい「宅急便」(リンク

こうした小倉の経営哲学に影響を受ける現代の経営者も多くいます。

大丸や松坂屋、パルコといった百貨店を運営するJ.フロント リテイリング株式会社の創業者の奥田務は、最も参考になる経営書として小倉の著書「小倉昌男 経営学」を挙げており、「経営とは自分の頭で考えるもの、その考えるという姿勢が大切」という言葉に感銘を受けたと述べていました。

奥田氏は大丸の再建を任されたとき、多くの人にアドバイスを聞いてまわっていた当時のことを振り返り、次のように語っています。

「経営者が考え抜いて、自分の会社に最もふさわしい理論を作り上げ、それを実践して、結果を出すしかありません。つまり答えは、経営者が考えに考え抜いた先にしか、あり得ないのです。」

自分で考えに考え抜いた先にしか、自分にとって最高の答えはありえない

↑自分で考えに考え抜いた先にしか、自分にとって最高の答えはありえない(リンク

今までのサラリーマンと言えば、マニュアル通りに求められたことを確実に行うことができた方がよく、自分で考える人材は排他されてきた傾向にありました。

社会の移り変わりの激しい現代で、いつまでも同じマニュアルに頼っていることができないからこそ、誰もが小倉のように自分自身の頭で考え、自分の進む道を作っていくことができるようになっています。

経営だけではなく、生きていれば誰でも乗り越えなければいけない壁にぶつかるのはつきものですが、壁が現れるたびに誰かに助けを求めたり、すがったりしても、決断するのは自分自身以外にいないのです。

自分自身の哲学を考え極めていくことが、この時代を幸せに生きていく秘訣なのではないでしょうか。

参考資料
1. 小倉昌男「経営はロマンだ!私の履歴書」(日本経済新聞社、2003) P3
2. 小倉昌男 「小倉昌男 経営学」(日経BP社、1999) Kindle 444
3. 小倉昌男 「小倉昌男の人生と経営」(PHP研究所、2012) Kindle 378
4. 小倉昌男 「小倉昌男 経営学」(日経BP社、1999) Kindle 946
5. 小倉昌男 「小倉昌男 経営学」(日経BP社、1999) Kindle 3870