ストーリー

One Life, One Thought
Vol. 79

スキャットマン・ジョン

やはり、すべてのことには意味があるのだ。私が吃音であることを歌にしよう!

2018/01/11

薬物とアルコールに浸りきっていたジャズミュージシャンのジョン・ラーキンは、サックス・フルート奏者の友人が薬物依存により亡くなったことに大きな衝撃を受けて、当時45歳という年齢からミュージシャンとして真剣に音楽に向き合うことを決意しました。

ジョンは18歳の時から南カリフォルニアのクラブでジャズピアニストとしてピアノを弾いていおり、それは話す時に言葉が詰まってしまってうまく喋ることのできない吃音(きつおん)という言語障害に苦しんでいたことが影響しています。

悩んだ結果、ジョンは「話すこと以外の何かを見つけなければ、みんなと仲よくなれない」と考えて、ピアノを弾けばみんなが注目してくれるだろうという思いからピアニストの道を歩みますが、ピアノを演奏するクラブには薬物とアルコールが手の届くところにあり、吃音のために精神を病んでいたジョンは薬物とアルコールに溺れてしまったのです。(1)

ジョン「喋るのが怖くてピアノの後ろに隠れるように演奏していたんだ」

↑ジョン「喋るのが怖くてピアノの後ろに隠れるように演奏していたんだ」(リンク

友人を失い、結婚してパートナーが出来たジョンは「もう逃げるわけにはいかない」と覚悟を決めると、それまで「自分は大丈夫だろう」と考えて目を背けていた薬物とアルコールと真剣に向き合い、妻の助けを借りながらも見事に薬物とアルコールから抜け出しました。

しかし、薬物とアルコールをやめたことによって今度はそれまで目をそらしていた「吃音」という苦しくて大きな問題と向き合わざるを得なくなり、どこまでいっても「吃音は恥ずかしいものだ」という考えが頭から離れなくなったジョンは、その苦しみを次のように例えています

「私がどこへ行っても、いつでも、大きな象が私の後ろからついてきます。他人からは見えている、この大きな象が吃音ですが、そんな大きなものをひたすら隠そうと躍起になっていたなんて、おかしいですよね。」

大きな象を隠すことなんてできない、隠すのではなくて向き合うことを考えよう

↑大きな象を隠すことなんてできない、隠すのではなくて向き合うことを考えよう(リンク

吃音と向き合うために50歳間近で吃音者の集まるグループに入ったジョンは、自分と同じように悩み、どうやって生きていくのか考えている仲間たちの大きな輪の中ではじめて、「自分が吃音であることにも何かの意味があるはずだ」と考えられるようになってゆきます。(2)

その後ジョンはドイツへ移住すると、そこで当時のアメリカでは受け入れられていなかったクラシックジャズが人々の間で楽しまれているのを目にし、意味のない音を即興で歌う「スキャット」というジャズの歌唱法が吃音である自分にはぴったりだということに気づきました。

それからジョンはステージで積極的にスキャットを取り入れるようになり、彼が歌えば曲は盛り上がりを見せて、どの舞台も大評判だったといい、のちにジョンは「スキャットすることで僕は好きなだけ吃音できるようになったんだ」と語っています

吃音であることにだって意味があるんだから世の中に本当に意味のないことなんてないんじゃないか

↑吃音であることにだって意味があるんだから世の中に本当に意味のないことなんてないんじゃないか(リンク

ジョンのスキャットはすぐに有名になり、しばらくするとレコード会社からデビューしてみる気はないかと聞かれるまでになりますが、ジョンは自分が吃音だということを世間に知られる恐怖から返事にとまどってしまいました。

そんなジョンを助けたのは妻のジュディの「いっそ世間に吃音であることを公表したらいいんじゃない?」という言葉です。(3)

ジョンは「自分が吃音であることを歌にしよう!」と決めるとスキャットマン・ジョン(Scatman John)というステージネームでテクノやヒップホップとスキャットを組み合わせた「Scatman (ski-ba-bop-ba-dop-bop)」という曲でデビューを果たします。

彼の出したアルバム「スキャットマンズワールド」は全世界で600万枚を売り上げ、同じように吃音に苦しむ多くの仲間たちを勇気づけたのです。

自分を全部さらけ出してしまうと最後には自信が残る

↑自分を全部さらけ出してしまうと最後には自信が残る(リンク

第二次大戦中に行った数々の優れた演説によってイギリス国民を鼓舞し、強いリーダーシップを発揮した第61代イギリス首相のウィンストン・チャーチルも、実は吃音を患っていたことで知られています。

チャーチルは生まれつき”s”の音をうまく発音できないことに苦しんでおり、医者から「生得的な問題はなく、忍耐強く練習することが必要です」と診断されると、スピーチの練習に忍耐強く取り組んで発音の改善に取り組みました。

そうやって吃音を克服し、誰もがその一言一句を息を飲んで見守るほどの雄弁家となったチャーチルは「力や知性ではなく、地道な努力こそが能力を解き放つ鍵である」という言葉を残しています。(4)

生まれ持った自分の特質は、それを隠せば自分のことを嫌いにさせてしまいますが、隠さないで自分の特質と付き合い続けていればそれが自分の強みになって、自分のことを好きだと感じさせてくれるのではないでしょうか。

特質があるから人は超絶な努力をすることができる

↑特質があるから人は超絶な努力をすることができる(リンク

彼の代表曲の1つであるScatmsn’s Worldで「もしも君が『自由になりたい』と願うなら僕の声を聞いてくれ」と歌っているジョンの楽しそうな姿は、こちらも思わず明るい気持ちにさせてくれます。

ジョンは「何かを創造することでどんな問題も目的に変えられるし、自分の中にある大きな問題は解決できればそれが強みの源になる」と語っていますし、私たちも今より少しでも自分のことを好きになれるように自分自身と向き合っていけるといいと思います。(5)

参考書籍
1. 佐藤光浩 「遅咲きの成功者に学ぶ逆転の法則」 (文響社、2016年) Kindle 545
2. 佐藤光浩 「遅咲きの成功者に学ぶ逆転の法則」 (文響社、2016年) Kindle 574
3. 佐藤光浩 「遅咲きの成功者に学ぶ逆転の法則」 (文響社、2016年) Kindle 597
4. C. L. McGinley 「Alf’s Little Book of Wisdom」 (lulu.com、2011年) P61
5. Jean Cheng Gorman 「Emotional Disorders and Learning Disabilities in the Elementary Classroom: Interactions and Interventions」 (Sky Hourse Publishing.inc、2015) P13