ストーリー

One Life, One Thought
Vol. 73

クリスチャン・ディオール

たいして愛してもいない仕事で成功することほど許しがたいことはない。

2017/12/01

Illustrated by KIWABI - ChristianDior

上流階級の家に生まれたクリスチャン・ディオールは子供の頃、カーニバルの衣装をデザインしたり、友達と変装ごっこをしたり、あるいは、部屋に閉じこもって自分で考えた衣装をデッサンしたりと、服に魅入られた日々を送っていたそうです。

当時、芸術家の社会的地位は低く、ディオールの美術学校に入りたいという願いは両親に聞き入れられませんでしたが、ディオールは芸術家にはなれないとしても芸術家を支援する仕事がしたいという思いから、両親を説得して友人と画廊を立ち上げることを選択します。

芸術の流れに敏感だったディオールたちの画廊経営は順調だったものの、世界恐慌が起こったことで父親が破産、さらに画廊も倒産し、ディオールはお金も住む場所も失ってしまいました。

運命は残酷で落ちるときはあっという間にどん底まで落ちてしまう

↑運命は残酷で落ちるときはあっという間にどん底まで落ちてしまう(リンク

30歳に近くにもなって組織の中で働いたことがない人間を雇う会社など存在せず、ディオールは仕事のない日々の中で、小さい頃に部屋に閉じこもって描いた衣装の絵が、友達や家族に賞賛されたことを思い出して「自分には服をデザインするという楽しみがあった!」とひらめいたのだそうです。(1)

「世の女性たちを、自分が作った服で美しく飾る」という人生の目的を見つけたディオールは、本格的にデザインに取り組むと、ファッションブックを模写したり、新作のコレクションに出かけて勉強したりしながら数百枚にも及ぶ山のようなデッサンを書き溜めました。(2)

ディオールの描いたデッサンは服に限らず、ハンドバッグや靴、帽子に手袋と様々で、その今までにない斬新さが受けて次々にデッサンが売れていくと、ディオールは「これこそ自分の生涯の仕事だ」と確信します。

人は生きる目的を見つけると不思議な力が湧いてくる

↑人は生きる目的を見つけると不思議な力が湧いてくる(リンク

美術学校に入れなかったディオールが服飾デザインを始めたのは30歳目前でしたが、彼のデッサンは徐々に広まり、僅か2年ほどでパリの一流メゾンであるロベール・ピゲに専任デザイナーとして雇われるまでになりました。

しかし、デザインが売れるようになってから数年で第二次世界大戦に徴兵されたこともあり、ディオールが本当にデザイナーとして人生を謳歌できるようになったのは、39歳になった頃のことです。

戦後、復活を賭けた老舗の有名メゾンからのオファーを受けたディオールは、それを断ると「自分の名前がついたメゾンで、戦後の女性たちの求める新しいものを作りたい」と訴えて、ついに「クリスチャン・ディオール」の名前のついたメゾンをオープンさせるに至ります。(3)

エレガントであることを追求し続けた結果最高のブランドが出来上がった

↑エレガントであることを追求し続けた結果最高のブランドが出来上がった(リンク

メゾンを開くとディオールは生涯の己の全てを注ぎ込み「私のメゾンは私の命なのです」と語るほどで、何時間も部屋に閉じこもっては「あのマダムが愛用のルノーの車に乗るときには、、」「あの人がシャンゼリゼを散歩するときには、、」と空想を行って満足のいく作品が出来るまでデッサンを描き続けていました。(4)

ディオールが服飾デザインを始めたのは30歳目前のことでしたが、73歳で絵を習い始めたという後藤はつのさんは、83歳の時に畳1畳分もある大きな100号サイズの絵を描き、99歳になるまでにその100号の絵を22枚も書いたといいますから、大事なことは「何歳で始めたか」よりも「どれだけ続けられるか」ということなのかもしれません。(5)

「もう年だから、もう遅い。そんなことはありません」

↑「もう年だから、もう遅い。そんなことはありません」(リンク

『継続はだれも裏切らない』の著者である内藤誼人さんは、感情というのはただ湧き上がってくるだけではなく、行動の後に出てくることもあるのを掃除に例えて、「『掃除が好きだから、 掃除をする』のではなく『掃除をしていれば、掃除が好きになれる』のである」というふうに言っています。(6)

普通、私たちはやる気がないから何もしないでいるといった行動をとりがちですが、行動することによってやる気が出てくるということもありますし、好きとか嫌いとかいう感情は必ず行動の後に生まれるものです。

このことについてセミナー講師やコンサルタントとして活躍するスティーヴ・チャンドラー氏も「ジョギングをしたいけどやる気が出ません」という人に対して「それはまだ 走っていないからです。もし走れば、すぐに走りたくなってきます」とアドバイスしています。(7)

「やりたいこと」は頭で悩んでいても見つからないが身体で行動してみるとすぐに分かる

↑「やりたいこと」は頭で悩んでいても見つからないが身体で行動してみるとすぐに分かる(リンク

ディオールは女性の服装の在り方に革命を起こし、1947年から11年もの間、パリのオートクチュール界の頂点に君臨しましたが、それはすべて元をたどれば「大好きな洋服のデッサンをしよう」というディオールの発想から始まったものです。

仕事をする上では売り上げや利益、ライバルとの競争といったことをどうしても考えてしまいがちですが、本当に革新的な製品を生み出したり、販売しようと思うのならば、頭のどこかかに「好き」という気持ちを持ち続けていなければいけないのだと思います。

参考書籍
1. 川島ルミ子 「ディオールの世界」 (1997年、集英社) P44
2. 川島ルミ子 「ディオールの世界」 (1997年、集英社) P44
3. 佐藤光浩 「遅咲きの成功者に学ぶ逆転の法則」 (2016年、文響社) Kindle 383
4. 川島ルミ子 「ディオールの世界」 (1997年、集英社) 102ページ
5. 後藤はつの 「111歳、いつでも今から」 (2015年、河合出書房新社) P12-16
6. 内藤誼人 「継続は、だれも裏切らない」(2010年、PHP研究所) Kindle 1151-1153
7. 内藤誼人 「継続は、だれも裏切らない」(2010年、PHP研究所) Kindle 1137-1142