ストーリー

One Life, One Thought
Vol. 1

オードリー・ヘプバーン

愛は行動。それは筋肉と同じで鍛えなければ、衰えていってしまうものなのです。

2016/04/18

Illustrated by KIWABI - Audrey Hepburn

「ローマの休日」や「ティファニーで朝食を」などで知られるオードリー・ヘプバーンは、彼女の死から20年以上経た今も、年齢や性別を問わず世界中の人々から愛される女性の一人であり、フランスのファッション誌「マリ・クレール」では、2015年の世界で最も美しい女性にケイト・モスやビヨンセらと共に、彼女の名前が挙げられています。

スクリーンの中では表情や仕草の愛らしさが特徴のオードリーですが、後年の彼女は、国連児童基金ユニセフの親善大使というもう一つの顔を持ち、その熱心な活動から、1993年に当時のアメリカ大統領ジョージ・H・W・ブッシュ氏から最高勲章が贈られています。

後年の彼女は女優とは全く別の顔を持つ

ユニセフがオードリーに活動への参加の話を持ちかけた際、オードリーは、家族や大好きな飼い犬と過ごしたスイスの自宅を離れることをためらう様子は全くなく、ファッションが大好きと公言していたにもかかわらず、ユニセフでの活動を始めてからは、持っていた洋服の多くをチャリティーの為に売却しました。最終的にクローゼットに残っていた服はたった10着だったと言われています。

ユニセフに賛同したオードリーは、「ユニセフが子どもにとってどんな存在なのかはっきり証言できます。・・・子供を否定することは命を否定することです。」と話し、彼女自身が幼少期の両親の離婚や、戦争による食料不足で栄養失調に苦しんだ体験は、ハリウッドでどれだけ成功を重ねようと、心から消えることはありませんでした。

↑子供を否定することは命を否定すること (United Nations Photo)

↑子供を否定することは命を否定すること (United Nations Photo)

オードリーは戦時中に、自分を救ってくれたユニセフからのチョコレートなどの援助の手を生涯一度も忘れたことがなく、それをなにかの形で世の中に還元したいという思いが、彼女をユニセフの慈善活動に駆り立てていたとも話しています。

オードリーの息子ショーンの著書『An Elegant Spirit』の中では、オードリーの子どもを慈しむ愛情深い家庭の姿が描かれており、2人の息子たち、ショーンとルカに宛てた手紙にこんな言葉が残されています
「忘れないで、もし助けが必要になったらそれはあなたの手の先にあることを。そして年を重ねるにつれて自分にはもう一つの手があることも覚えておいて。一つはあなた自身のため。二つ目は誰かの為に。」

一つはあなた自身のため。二つ目は誰かの為に。

オードリーは、日常のさまざまな場面で息子たちに“愛”の大切さを語っており、息子のショーンは、オードリーから次のように教えられたと述べています。

「愛は行動なのよ。言葉だけではだめなの。私たちには生まれた時から愛する力が備わっています。それは筋肉と同じで鍛えなくては、衰えていってしまうのです。」

「愛は生命力のもっとも大切なもの」と語り、自らユニセフを通じて世界20か国以上を訪れ、慈善活動につくし続けたオードリーの人気が再燃しているのは、現代の「愛」の薄さを誰もが肌で感じ始めているからかもしれません。

15015915323_8b81642628_z

↑愛は筋肉と同じで、鍛えなければ衰えていってしまう (Guy Mayer)

利便性の理由から、実際に声を聞いて話すより、メッセージのやりとりのほうが好まれ、恋愛においても、深入りして傷つくよりは友達のようにあっさりした付き合いのほうが、“かっこいい”という風潮など、相手を深く知ろうとする努力をすることを避ける傾向にある今の世の中。オードリーのユニセフの活動を初めとした生き方は、“実際に目で見て理解する”という、相手の心に触れようとする努力そのもので、一見、現代人の感覚からはかけ離れているように見えます。

16326650571_5e06e19ccc_z

↑薄く、量を意識したコミュニケーションは増える一方 (Matthew G)

しかし、2013年にアメリカで行われたソーシャルメディアユーザーに関する調査によると、通信技術の発達で、誰とでも繋がることが容易になったにも関わらず、回答者の75%以上は、対人との繋がりに飢えている傾向にあるという結果がでているように、人と人とのつながりが表面的になっていく今だからこそ、心の奥底にしまいこんだ「愛」への憧れが、それを体現したオードリーへの賞賛となり、メディアから注目を集める要因てなっているのではないでしょうか。

ソーシャルメディアが発展した現在、多くの人が「本当の愛」に飢えている

オードリーは人気絶頂のさなか、世界一美しい目だと評されるたびに、「いいえ、世界一美しい目のメイクです」と答え、「女性の美は、その人が着る洋服やセットされた髪型にあるものではなく、その人の目にあるものよ。目はその人の気持ちをつなぐ通り道で、愛が宿る場所だから。」とも語っています。愛に対して誰よりも努力をした彼女の目の奥に見える「愛」が、オードリーを「例えようもないほど美しい人(Beauty beyond Beauty)」と呼ばせる大きな理由なのかもしれません。