ストーリー

One Life, One Thought
Vol. 56

エレノア・ルーズベルト

女性というのはさまざまな障害をはねのけて、1センチずつ前進するもの

2017/06/22

出典:crmg.me

ヒラリー・クリントンやミシェル・オバマなど、近年アメリカのファーストレディは積極的に政治の舞台に姿を現していますが、その先駆け的存在であり、アメリカ社会に最も大きな影響を与えたファーストレディはエレノア・ルーズベルトであると言われています

アメリカ第32代大統領フランクリン・ルーズベルトの妻であるエレノアは、国連人権委員会のアメリカ代表として世界人権宣言の起草に携わるなど、人種差別の撤廃や女性の地位の向上に多大な貢献をした人物の一人です。

ファーストレディになった後、「社会とかかわると決めてから、さびしいという記憶はまったくありません」と語ったエレノアですが、彼女は幼い頃からとても内気で自分の容姿に自信がなく、夫の浮気にも黙ってじっと耐えていた女性で、過去には次のように述べていたことすらあります。

「そのころは、このこと(婦人参政権や女性の地位向上運動)について深く考えたことはありませんでした。なぜなら、男性のほうがすぐれていると頭から信じておりましたし、政治のことも、彼らのほうが、よりよく知っていると考えていましたから。」(1)

↑政治なんて男が頑張るもの。ほんとにそう?(リンク)

↑政治なんて男が頑張るもの。ほんとにそう?(リンク

かなり内向的な彼女の性格ですが、見方を変えると彼女の持つこの資質こそが、彼女が重要な役割を果たせた要因なのかもしれません。

組織心理学者のアダム・グラント氏の研究によれば、内向的なリーダーは、社員からの提案を慎重に聞き、彼らが積極的に活躍できるようにと考える一方、外向的なリーダーは他の人のアイデアを聞くよりも何でも自分で取り仕切ることに意識が向きがちで、結果として内向的なリーダーの方が外向的なリーダーよりも良い結果を生むことが多いといいます。

また、心理コンサルタントであり『性格学入門』の著者であるオットー・クルーガー氏とジャネット・トゥーゼン氏によると世界の人々の75パーセントは外向型であるといいますが、エレノアの自分自身について感じ、深く考えてしまう内向性は、外部の世界で社会的に虐げられている人々を理解する助けとなったという見方をすることもできるでしょう。(2)

↑内気で自分に自信が持てないからこそ世界を変えられる(リンク)

↑内気で自分に自信が持てないからこそ世界を変えられる(リンク

そんな内向きな彼女ですが、体が不自由になった夫のために、政治的なパートナーとして歩むことを決意をすると、自信のないひっこみ思案な自分と別れ、勇気をもって人生を踏みだすようになります。

それまで自分の世界に閉じこもっていたエレノアにとってひとつの大きな転機となったのは、第一次世界大戦が終わって間もない頃に夫のフランクリンとともにフランスの戦場跡へ出かけて行った時のことです。

戦争のむごい体験によって精神の病気をわずらった兵士たち、病院では職員や病室も足りず、患者は部屋の外まであふれている。そういった状況を目の当たりにしたエレノアは、なんとかしなければという思いから、ひとつひとつの病院を調査しては待遇の改善に取り組んだのでした。

戦場跡で戦争の悲惨さを身をもって感じたエレノアは、もう世界の不公平を他人事にしていることができなくなり、世界平和に一生を捧げようという決心へつながっていったのです。

↑他人のために尽くそうと決めれば人生の価値が変わる(リンク)

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夫の死後には、また孤独な女性に戻るとマスコミに騒ぎ立てられましたが、エレノアは公のために進むことをやめませんでした。彼女は大恐慌の時には全米中を訪問して回り、新聞のコラムへの執筆、定期的な記者会見の実施など、人間に与えられるべき権利の平等を達成しようと粘り強く活動をしていきます。

そして地球に住むすべての人々の生活と自由を守ろうとする彼女の想いが形にされた世界人権宣言では、「人種や肌の色、話す言語などが違ってもすべての人は同じ権利と自由を持っている」という原則が「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」として世界で初めて公式に定められたのです。

エレノアは、国連大使など数々の役職を経て75歳になってもなお大学の講師を務め、死の1年前である1961年には再度国連大使を引き受けるなど、彼女の思い描く平和は頭の中にあるだけではなく、目の前の不遇に一歩づつ挑むように世の中に貢献することをやめることはありませんでした。

エレノア「世間に貢献できなくなったら、死に始めたと同然です。」(リンク)

エレノア「世間に貢献できなくなったら、死に始めたと同然です。」(リンク

世界中の人々を対象に行ったある調査によると66パーセントの人が「男性がもっと女性のような発想をしたら、世界は好ましい方向に変わるだろう」と考えているといい、さらには、女性的な価値観を受け入れているカナダ、ブラジル、イギリスなどの先進国ではインドや中国、インドネシアといった男性的な思考の強い新興国よりも、一人当たりGDPや生活の質が5倍も高いことが明らかにされました。(3)

それまでは家の中で家事をしているのが当たり前だったエレノアが、初めてファーストレディとして政治の表舞台に立ち、次々に社会へ進出していったように、女性がもっとリーダーシップを発揮できるように私たちも歩みを進めていけば、新たな世界が広がっていくのかもしれません。

 

参考書籍
1.デイビッド ウィナー 「エリノア・ルーズベルト―アメリカ大統領夫人で、世界人権宣言の起草に大きな役割を果たした人道主義者 (伝記 世界を変えた人々)」 (1994年、偕成社) p36
2.マーティ・O・レイニー 「内向型を強みにする」 (2013年、バンローリング) Kindle 119
3.ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ 「女神的リーダーシップ 世界を変えるのは、女性と「女性のように考える」男性である」 (2013年、プレジデント社) Kindle 99, 264